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「あ、あぁ……っ!」
無数の足音が近づいていることを、部屋全体が教えていた。慌ただしく、激しい。
薄暗い空間に、一人の男の鎮魂歌(レクイエム)としてはとても無情に、とてもよく、鳴り響いていた。
「うわあぁぁぁぁ!」
「少年!?」
ほぼ同時に、数多の兵が押し掛けてくる。
しかし、立ち止まり、動かずに、動けずに、逃げることも出来ずに、ただ止まっていた。
何もない地下空間で、吹き荒れる風。
兵に浮かぶ表情は、畏怖。
そして、部屋全体が仄明かりに包まれていた。
部屋全体に張り巡らされたものは、アイニすら見たことの無い魔法陣。
そして、城下町にぽっかりと空いた風穴を思い出した。
同時に、自らの身の危険も感じる。
「くそっ!」
まさに、未知との遭遇、であった。
「あぁぁぁぁ!」
泣き叫ぶような、悲痛の叫び声が、辺り一面に鳴り響いた。そして閃く深緑の閃光。
それを合図に、
風が舞(おど)った。
狭い空間に逃げ道などあるはずなく、人は為す術なく木っ端微塵に粉砕する。逃げようとしても、多すぎる兵が道を塞ぎ、ままならない。
その間も、赤い風が人を飲み、赤くなる。もぎ取られる四肢。砕かれる頭部。
風の刃が体を斬り裂き、風の圧力が体を潰す。腐敗臭が充満し、赤く、染まる。
その時、奇妙な音が、僅かながら鳴っていた。
骨の砕ける音や、肉の弾ける音ではない。
何かが、軋む音だった。
ギィィ……ギギィィ……と、静かに、鳴っている。誰にも理解されずに、鳴り、そして、それは、崩れた。
天から降り注ぐ、瓦礫と言うべき残骸。天井を支える木の枠組みが壊れたのだ。
そしてそれは、セエルと、既に生きるものなどはいない亡骸の間に、落ちた。
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