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人々の慌ただしい悲鳴が、辺りを覆い尽くしている。
見ていた者は言う。
運送用の大きなトラック──走り方からして、飲酒運転──が、左折した。そうしたら、どういうわけか後ろを見て動いていない少年に、ぶつかった。物理的に、ぶつかった。
その少年は飛ばされることなく、トラックに引きずられた。
運転手は驚いたのか、いきなり歩道に突っ込んだ。
見た。確かに、少年は、引かれた。まだ若かった。気の毒だった。
無造作だが、嫌らしくない髪型の少年だった。
学生服を着ていた。
ざわざわと、好奇心の強い若者は集まっていた。その、吐き気を催す臭気にかかわらず、である。
逃げるものはすぐに逃げていった。今ここにいるのは、野次馬だけと言っても過言ではないだろう。
それでも、トラックの下から這い出た、ある意味血の気の多い腕は、そんなものすらも逃げ出させてしまう不気味さを持っていた。
まるで、生に懇願するような、何かを求めているような、這い出た、手。
血溜まりは、少しずつ、少しずつ、広がって行く。
ただでさえ、大きな筆で描いたような紅い一本の線は、道路を不気味に彩っている。そこは、明らかな事故現場だった。
不快臭の立ち込めて、野次馬がいて、サイレンが遠方から聞こえる、ただの、事故現場。
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