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カタン……
目を瞑る程の暗闇。
何かが外れる音がした。
†
「はぁ……はぁ……はぁ……」
気付けば、自分はベッドの上にいた。夢見が悪かったのか、大量の汗が体あちこちから滲み出ている。
それに、全身を襲う、どこか空虚な喪失感と、不安。純粋に、どこか怖い。
しかし、具体的に何が原因なのかはさっぱり分からない。夢で何かがあったのだろうが、内容はどうも思い出せない。ただ、今の自分の様子から、悪夢だったと予想できる程度だった。
「……」
何も分からず、右手で頭を掻く。少し寝癖がついていた。
結局、考えても埒が明かない。汗を流しに風呂へ向かおうと、体を起こそうとした、刹那──
「──っ!」
声にならない声。全身に、痛みが走る。まさに、駆け巡ると言う表現がしっくりくる、激痛だった。
動かそうとすればするほど、体がそれを拒絶してしまう。無理矢理動かそうと思えばできるだろうが、少し無謀なものに思えた。
当然、風呂に行くことは諦め、ベッドに蹲る。
安静にしていると痛みは引くようで、スッと、痛みが嘘だったかのように消えていた。
一先ず、深呼吸する。吸い込んだ空気は溜め息にも似た様子で、大きく吐いた。この程度なら支障はないらしい。
そして、落ち着いたところで、ようやく異変に気が付く。
「ここは……何処だ?」
気付くのは、幾分か遅すぎた。それでも、今ある視界──天井を眺める。
コンクリート……いや、違う。そんなお粗末な物じゃない。しかし、何かは分かりかねる、硬質の素材。
総じて分かることは、自分の知る場所では無いと言うこと。結局はそれだ。こんな雰囲気、感じたことがない。広すぎる。
そして、周りを見ようと、少し首を傾けた。
見えたのは、レンガ造りの壁。規則的に並んでいる。手入れも行き届いているようで、ずいぶんと光っているようだった。
そして、完全に吹き抜けの窓。風雨をどうやって凌ぐのかと疑問に思うも、そこから覗く蒼穹に目を奪われた。
青い、青い、天。
白い、白い、雲。
青いキャンバスに白い絵の具をまいた、それである。
美しい。そう形容するに相応しい景色だった。思わず、呆けた様子で眺める、その時だ。
不意に空間が開けたような感覚に陥った。閉ざされたものが開いたような、感覚。
そして、今度はそちらに首を傾けた。
「起きられたのですね」
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