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一言、優しく声をかけられる。しかし、少年にそれは理解できてはいなかった。
そこには、白を基調とした──まさに、ゲームや漫画でしか見たことのない格好をした少女が立っているのだ。
恐らく、歳は同じ程度だろう。大人と子供の境目のような顔立ちをしている。
が、しかし、そんなことはどうでもよかった。
やはり、一際目の惹く服装。そのせいで、少年の思考は幾つか止まっていた。
それでも、数秒の時を経て、思考が回復する。同時に、やはり服装がおかしいと理解した。
しかし、人の趣味をとやかく言う癖を持っているわけではない。それに、その姿がどうも似合っていて、そんなことを言うのは憚れてしまうだろう。
「誰?」
と、少年は言ったつもりでいた。初対面では少し失礼かもしれないが、実際は声は上手くだせずに擦れた何かになっていたのだ。
先程まで、声は出ているものと思っていた。しかし、その少女の顕れで冷静になった頭は、今の状況を理解した。
声をうまく出せない。その驚きに、全身を強く打たれる。
その勢いでか、体を無理に動かそうとしてしまい、追い討ちをかけるように激痛が走った。痛みに耐えるように、くっと歯を食いしばる。
それを見た彼女が、慌てたように、しかし、ゆっくりとした足取りで近づいてきた。走らないのは、少年に負担をかけないためだろう。
「無理に喋らないでください。あなたが寝ていたのでろくな治療が出来ていません」
そう言うと、傍にまでよってきた彼女はにっこりと笑い、両手を翳した。
そして、何かを呟いたかと思うと、彼には到底理解し得ない現象が起こった。
それは、ゲームなどでよくある。だからこそ、それが何なのかを何とか分かった程度だった。だが、それでも、あまりにも非現実的すぎる。
彼女の手の周囲が仄かに輝いていた。同時に、草原に立ったときのような、爽やかな感覚が流れる。
体の重たさも無くなり、先程まで調子が悪かったのだと、改めて認識させられた。
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