第五夜「特殊」

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       † 「汝(なれ)、何を願うか?」 それは、男の声。何も見えない白い世界。目を瞑っているのに、白い。 「汝、何を叫ぶか?」 言葉は全身で聞いている。染み込み、浸透し、溶け込み、一体となる。 「汝、何を褒めやすか?」 見えないのに見えている白い世界は、独りでただ、黄昏ている。 精神だけの意識で、セエルは感じていた。 それは、虚無。 本当に何もない、白い世界。 「んっ……」 木の天井がそこにあった。 「ここは……?」 セエルは上半身を起こした。 質素な造りの木造の一室。目立った装飾はなく、枕元の灯りがそれらしいものだろう。あとは、机やゴミ箱や、その程度だ。 それに、少し埃っぽい。 「やっと起きたか」 太陽はもう頂点に達している。 「こ、ここどこ?」 「宿だ」 「宿?」 「これでも気遣いなのだがな」 「あ、ありがとう」 しかし、セエルにはよく分かっていなかった。何が気遣いなのか、なんのための気遣いなのか、何故必要だったのか。 ただ、それはセエルが深く考えるに値しなかった。 疑問としてだけそれを持ち、考えはしなかった。必要もなかったからに違いはないが、それ以前にこの事は驚くほどに素直に飲み込めていた。 「(セエル、器の話はしたな?)」 いきなりの風音の言葉に、セエルは肩を跳ねさせた。 「(したけど?)」 「(戻っている。広がった器が、元に)」 「(そろれは喜んでいいのか?)」 「(嘆いた方がいい)」 「(……はぁ)」 本当に嘆くべき事かはセエルには到底理解できなかった。
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