2275人が本棚に入れています
本棚に追加
そして、アイニは図書館の外に出た。
透き通るような蒼穹。
頬を撫でる優しき風。
しかし、アイニには心地好くは感じれなかった。
空や風が嫌いなわけではない。
ただ、それらと相反するように、殺気に当てられていた。
相手の姿は見えない。
ねっとりとした空気が体にまとわりつく。
──敵は一人か、二人か、それとも複数か。
一歩一歩がとても重い。
──また、何者か。
額には冷や汗とも脂汗ともつかぬものが流れる。
「(一体なんだ……!?)」
アイニが戦闘を覚悟したまさにその時、かの殺気は嘘だったように消え失せた。
「(……)」
そして、嘲笑うかのように。
「くそっ!」
アイニは小さく舌打ちした。
見えぬ相手は、魔力以上にレベルが違いすぎた。それを、闘わずとも思い知らされた。
「(まだまだだな)」
その一方、アイニを見ている者たち。
殺気の正体は彼らでそう違いなかった。影は三つ。家屋の上から見下ろしていた。
一人は女。
「あんなのが彼の引率者でいいのですか?」
深くフードを被り姿は見えない。ただ、声からしてそう年老いてはいないだろう。
「切り捨てれる中で最強だからな」
そして、男。
こちらもフードを被り姿は見えない。しかし、重低音の声には獣のような風格を連想させる。
「マルファイ家を切り捨てるんですか?」
一方、一人だけフードを背に垂らしている、糸目の髪の長い男。色白の肌や、その雰囲気から、は虫類や両生類と言った印象を受ける。
「彼に比べればマルファイなどクズも同然であろう」
「ま、それもそうですかね」
その三人は、どうも物騒な話をしているらしかった。
しかし、聞いている者などここにいる三人以外いるはずもなく、ただ少しだけ傾いた太陽が影を伸ばしているだけである。
「そう言えば、このクライアントであるあの男はどうすべきでしょうか?」
「情報を聞けるだけ聞き出せ。それが世のためだ」
「仰せのままに」
そして、三人はこの場を後にした。
残るものは、何もない。ただ、空虚な空間に戻っただけだった。
†
「(あの殺気……早くこの街を出て、ジーニアスに行ったほうがよさそうだ……きっと追っ手だろう)」
最初のコメントを投稿しよう!