第五夜「特殊」

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そして、アイニは図書館の外に出た。 透き通るような蒼穹。 頬を撫でる優しき風。 しかし、アイニには心地好くは感じれなかった。 空や風が嫌いなわけではない。 ただ、それらと相反するように、殺気に当てられていた。 相手の姿は見えない。 ねっとりとした空気が体にまとわりつく。 ──敵は一人か、二人か、それとも複数か。 一歩一歩がとても重い。 ──また、何者か。 額には冷や汗とも脂汗ともつかぬものが流れる。 「(一体なんだ……!?)」 アイニが戦闘を覚悟したまさにその時、かの殺気は嘘だったように消え失せた。 「(……)」 そして、嘲笑うかのように。 「くそっ!」 アイニは小さく舌打ちした。 見えぬ相手は、魔力以上にレベルが違いすぎた。それを、闘わずとも思い知らされた。 「(まだまだだな)」 その一方、アイニを見ている者たち。 殺気の正体は彼らでそう違いなかった。影は三つ。家屋の上から見下ろしていた。 一人は女。 「あんなのが彼の引率者でいいのですか?」 深くフードを被り姿は見えない。ただ、声からしてそう年老いてはいないだろう。 「切り捨てれる中で最強だからな」 そして、男。 こちらもフードを被り姿は見えない。しかし、重低音の声には獣のような風格を連想させる。 「マルファイ家を切り捨てるんですか?」 一方、一人だけフードを背に垂らしている、糸目の髪の長い男。色白の肌や、その雰囲気から、は虫類や両生類と言った印象を受ける。 「彼に比べればマルファイなどクズも同然であろう」 「ま、それもそうですかね」 その三人は、どうも物騒な話をしているらしかった。 しかし、聞いている者などここにいる三人以外いるはずもなく、ただ少しだけ傾いた太陽が影を伸ばしているだけである。 「そう言えば、このクライアントであるあの男はどうすべきでしょうか?」 「情報を聞けるだけ聞き出せ。それが世のためだ」 「仰せのままに」 そして、三人はこの場を後にした。 残るものは、何もない。ただ、空虚な空間に戻っただけだった。        † 「(あの殺気……早くこの街を出て、ジーニアスに行ったほうがよさそうだ……きっと追っ手だろう)」
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