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アイニは、自分達がそういう存在から脱出したことを知らない。
「(なら、セエルも危ないと言えるな……だが、あいつならば大丈夫だろう……)」
そうは考えていても、全てにもしも、が存在する。どうであっても、早くここから離れるべきだと考えていた。
しかし、セエルとは別行動をしている(セエルが望んだ結果である)。相手の実力が分からない以上、何がどうであれ危険なのはかわりない事実である。ならば、取るべき行動は一つしかないだろう。アイニは、自分の影を追うように走っていった。
その一方、セエルはと言えば暢気に露店商を物色していた。しかし、それは仕方がないだろう。彼は何があったのか全く知らないし、何より、今という時間を存分に満喫していたのである。
「すごいな。博物館で見るようなものばかりだ」
子供のように目を煌めかせ、セエルは品物を見ていた。装飾の施された短剣や、文字らしいもの(これがルーン文字だとはセエルは知らない)が掘られたシンプルな指環、それに、小さな石でできている可愛らしい耳飾り。
「(珍しいか?)」
「(かなり。これ、本物なんだろ?)」
セエルは、中でも比較的シンプルな短剣を手に取った。それを鞘から抜き、まるで品定めでもするような目付きで短剣を見つめた。
「(あぁ、人を殺せるな。)」
簡単な一言。それにどれだけの重みがあるのか。まだ、セエルには理解できていなかった。
「(こわいな)」
ただ、そう感じただけだった。
しかし、手にかかるこの重量感、鈍く光る白銀はにどうも不思議な魔力があるように感じる。それだけの価値があるようにも思えた。武器という魔力。セエルはそれに魅せられたとども言えよう。
「お兄ちゃん。気に入ったんなら安くしとくよ」
明らかに三十路を走っているこの店の男が話しかけてきた。しかし、買う気は更々無い。と言うより、今はそんな金は持ち合わせていなかった。
「いえ、今日は下見だけなんで」
もちろん嘘である。しかし、無意識に出てきた断りの言葉は、男を納得させるには十分な理由を持ち合わせていた。
「そうかい。なら、こう言うのはどうだい? 二ヶ月前に発掘された遺跡からでた石を使ったものでな、価値のつけられていない今ならね価格だ」
男が手にとったのは、赤い宝石が刀身に埋め込まれている剥き出しの短剣だった。
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