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セエルはそれを受け取り、埋め込まれている石を指で撫でてみた。よく研磨されているのか、硝子のような触り心地がした。
「(風音はどう思う?)」
男の言葉に少し興味を持ち、詳しそうな自分の中の存在に問いかけてみた。
「(ハズレじゃな)」
軽いため息混じりに、また少し呆れているように言葉をつむいだ。そして、続ける。
「(ただの宝石だ。魔力の欠片も篭っていない)」
「(物にも魔力が篭るのか?)」
セエルはいぶかしげに赤い宝石の短剣を眺めた。その時、確かに薄っぺらい気のする石だと思った。もう一度撫でてみれば、手には乾いた石の感触が残る。
「(ある種の石は魔力を蓄積したり、魔力を伝達する性質がある。覚えておくといい)」
「(そうするよ)」
そこで会話は途切れ、セエルは手に持つ短剣をそっと元の位置に戻した。それとほぼ同時に男が口を開いた。
「気に入らなかったか?」
「俺の予想じゃハズレですから。あくまでも、俺にとっては」
セエルは極力男の気に触れないように言葉を選んだ。
「かっはっはっ! こりゃ参ったな」
男のいきなりの笑い声に、セエルは素直に驚いた。しかし、それにはとどまらずただの通行人でさえ驚いたほどである。
「あくまで、個人の意見ですよ」
しかし、実際は風音に聞いているため少し違う。しかし、自分の意見ではないにしろ、多数ではなく少数の意見であるから、さほど代わりの無いものだろう。
「では、そろそろ行くので」
そう言い、セエルは早々に立ち去ろうとした。しかし、ちょうどその時に男に呼び止められていた。
「お兄ちゃん、気を付けてな」
突然のその言葉を怪訝に感じ、少し戸惑ってしまった。
「あ、ありがとう」
今度こそ、セエルはこの露店商から立ち去ることに成功した。
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