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そして、露店商を巡るのも飽きたため、少し歩いていると、公園の様な広場が妙に活気だっていた。
いや、広場だけではない。街が、都全体が活気だっているのだ。今まで気付いていなかったわけではない。ただ、改めてそう思った。
もう一つの太陽のようにも思えた。
そう、暖かな感傷みたいな物に浸っていると、視線の端に辺りを見回すアイニを見つけた。
その様子から、自分を探しているのだと簡単に想像できたセエルは、アイニのもとへ歩いていった。
十数歩あるいたところで、アイニもこちらに気付いたらしい。
「アイニ、どうかしたのか?」
すると、アイニの耳打ちが聞こえた。
「詳しくは分からないが、おそらく追っ手らしき存在がある。もうここを出たいのだがいいか?」
目にうつるアイニの深刻な表情は、事の重大さを物語っているのだろう。
「構わないよ」
それに、街を見回りたいと言う自分の要望も十分に満喫した。ここに留まる必要はもうないだろう。
「なら、いくぞ」
そう言ったアイニは踵を返し、セエルに背を向けた。
歩くこと十数分。着いたのは、なんの変哲もない運送屋だった。見えるのは、茶色い馬が二頭繋がれた馬車と、それより一回りほど小さい馬が一頭の馬車。
経営難に心配される様子はなく、かといってそう有名ではないような、本当に、普通の店。
アイニらが近づくと、カウンターの向こう側から人が出てきた。手の甲に、名前らしき刺青を掘っている。
「どういったプランでしょうか?」
「すまんが、店主を呼んではくれないか?『オーディーンから来た』と言ってくれれば分かるはずだから」
そのオーディーンと言う言葉に、セエルは反応した。反射のような反応である。確かに、聞き覚えのある響き。何かは分からない。ただ、知っている、ような気がする。
所謂、デジャヴのような感覚だった。
しかし、あまり重要では無いのは気のせいでは無さそうである。
「はぁ……少しお待ちください」
そういい、刺青の男は出てきた場所に戻っていった。
それを見計らい、先ほどの、デジャヴ、が気になるセエルは、アイニに訊いてみた。
「アイニ、オーディーンってなんだ?」
「あぁ、私たちのトップの暗名だ」
しかし、どうもこれは完全なデジャヴであるらしかった。アイニの上司の名など知っているはずがない。
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