第五夜「特殊」

9/18
前へ
/384ページ
次へ
そして、露店商を巡るのも飽きたため、少し歩いていると、公園の様な広場が妙に活気だっていた。 いや、広場だけではない。街が、都全体が活気だっているのだ。今まで気付いていなかったわけではない。ただ、改めてそう思った。 もう一つの太陽のようにも思えた。 そう、暖かな感傷みたいな物に浸っていると、視線の端に辺りを見回すアイニを見つけた。 その様子から、自分を探しているのだと簡単に想像できたセエルは、アイニのもとへ歩いていった。 十数歩あるいたところで、アイニもこちらに気付いたらしい。 「アイニ、どうかしたのか?」 すると、アイニの耳打ちが聞こえた。 「詳しくは分からないが、おそらく追っ手らしき存在がある。もうここを出たいのだがいいか?」 目にうつるアイニの深刻な表情は、事の重大さを物語っているのだろう。 「構わないよ」 それに、街を見回りたいと言う自分の要望も十分に満喫した。ここに留まる必要はもうないだろう。 「なら、いくぞ」 そう言ったアイニは踵を返し、セエルに背を向けた。 歩くこと十数分。着いたのは、なんの変哲もない運送屋だった。見えるのは、茶色い馬が二頭繋がれた馬車と、それより一回りほど小さい馬が一頭の馬車。 経営難に心配される様子はなく、かといってそう有名ではないような、本当に、普通の店。 アイニらが近づくと、カウンターの向こう側から人が出てきた。手の甲に、名前らしき刺青を掘っている。 「どういったプランでしょうか?」 「すまんが、店主を呼んではくれないか?『オーディーンから来た』と言ってくれれば分かるはずだから」 そのオーディーンと言う言葉に、セエルは反応した。反射のような反応である。確かに、聞き覚えのある響き。何かは分からない。ただ、知っている、ような気がする。 所謂、デジャヴのような感覚だった。 しかし、あまり重要では無いのは気のせいでは無さそうである。 「はぁ……少しお待ちください」 そういい、刺青の男は出てきた場所に戻っていった。 それを見計らい、先ほどの、デジャヴ、が気になるセエルは、アイニに訊いてみた。 「アイニ、オーディーンってなんだ?」 「あぁ、私たちのトップの暗名だ」 しかし、どうもこれは完全なデジャヴであるらしかった。アイニの上司の名など知っているはずがない。
/384ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2275人が本棚に入れています
本棚に追加