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それゆえ、セエルはこれ以上追求せずに、また、考えることもしなかった。無駄だと感じた結果である。
「それがどうかしたのか?」
「いや、聞いたことがある響きだなと思って」
それに、アイニは何か悟ったような声をあげた。
「あぁ、それは、大戦で活躍した戦士の名だからだろう」
大戦という言葉に何の疑問も持たず、セエルは頷いた。しかし、蟠(わだかま)りが消え去らないのは当然だろう。だが、その理由は今のセエルには分からなかった。
「魔法の才に長け、また、槍術にも長けていたらしい」
店主らしき人物が現れたのはアイニがちょうど話終わった頃である。
ニタニタとした笑いを浮かべているその男は、まるで贔屓している客を接待しているような様子だった。
その笑みは終始止まらず、口を開いた。
「どちらまででしょうか?」
「ジーニアスだ」
アイニは相手が言葉を言い終わる前に答えていた。
そんな無礼も相手は全く気にしないようにニタニタと笑い続けている。
「それと、サミジーナに立ち寄ってくれ」
「了解しました」
そして、店主は店の奥へと入っていった。その後ろ姿からは喜びに似た感情を思い起こさせた。
そして、完全に姿が見えなくなって十秒も経たない内に弱冠二十歳と言うにふさわしい青年が現れた。
彼はゆったりとした足取りでアイニの元へ近づいた。先とは打って代わり、その様子には、年齢不相応の貫禄が顔を出したようにも見える。
「はじめまして」
そして、青年は軽い自己紹介を行った。名は、ユッグと言うらしい。分かったのは、それだけだ。
「では、まずはサミジーナへ向かいますね」
そういい、ユッグは馬車の多く置いてある一角へ向かった。ついてこいと言うことだろう。
アイニとセエルは、それに逆らうことはしなかった。
そして、一台の馬車の側に立つユッグは、その馬車の運転席であるところに乗り込んだ。馬は二頭。
「到着予定は明日の早朝です」
太陽が傾きかけていることから考えると、およそ半日の間馬車に揺られるようである。
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