きみとふたりで晩餐会

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***  目を開けると心配そうに覗き込んでいた梨奈の顔が、ぱっと明るくなった。部屋の中はパーティー会場とは打って変わって、間接照明が目に優しい。 「ここは…」 「今夜は泊まろうと思って、部屋を取ったの」  頭がガンガンする。 僕はゆっくりベッドに起き上がって、コップに()がれた水を一気に飲んだ。 「大丈夫?」 「あー、うん。飲みすぎたかも…」 「バーテンダーの人が恐縮してた。間違えてを渡しちゃったんだって」  どうりで急に酔いが回ってきたと思った。 「そんな弱くはないはずだけど、緊張してたからな」 「おかげで今日はタダで泊まれるって」 「そりゃよかったな」  梨奈が隣に座り、僕の手を握った。 酔って火照(ほて)った手にも彼女の体温が伝わってくる。 僕は梨奈のおでこにこつんと自分の額を触れさせた。緊張で強張(こわば)っていた体がほぐれていく。 「パーティーも無事に終わったよ。ありがとう」 「そうか」  僕はため息をついた。肩の力が抜けた。 「…あいつはどうした」 「ふふっ」  梨奈は笑って答えない。 「何だよ。みっともないところ見せちゃったか」 「違うよ。嬉しかったの。謙さんがあたしを守ってくれたから」 「…酔いつぶれて、寝てただけだろ?」 「ううん。カッコいい虎になってたよ」 「虎?」  ぼんやりした頭では意味がわからない。 大成が梨奈に言い寄ってるのを見て、頭に血が昇ったのは覚えてるが、そのあとは記憶が曖昧だ。 『葉山さんが睨みを効かせれば』 「それに、遥香さんが言ってた例のモノって?」 「いいの、何でも。(ゆずる)さんはいつだってあたしのヒーローだから」  梨奈は僕を黙らせるかのようにキスをして、ぎゅっと抱きしめてきた。
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