きみとふたりで晩餐会

8/9
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
*** 「何をしている」  (ゆずる)先輩の声が低く、怒気をはらんでいるのにあたしは気がついた。大成はへらへら笑って振り返った。 「あれ。いたの。なーんだ、せっかく梨奈を口説こうと思ってたのに」 「へえ。いい度胸だな。人のモンに手を出すなんて。最近のお坊っちゃまはそういう教育を受けてるのか」 違う いつもの謙さんじゃない  大成はにやっと笑った。 「本性現したな。猫かぶりが」 「その台詞、そっくりそのまま返してやるよ」 「梨奈に相応(ふさわ)しいのは俺だ。雑魚(ざこ)は引っ込んでろ」  大成が忌々(いまいま)しげに吐き捨てると、先輩は静かに言った。 「梨奈。例のモノを」 「…うん!」  あたしはすぐにスマホの画面を操作すると、大成の鼻先に突き出した。 「なっ、何だ、コレは…」 「遥香姉さんが集めてくれたの。一枚じゃ済まないわよ。心当たりは山ほどあるでしょうから」  画面に写し出されているのは、大成とある令嬢とのツーショットだ。枚数もあるが、相手は一人だけではない。 『隠そうとしないから尾行は楽だったけど、一週間で7人以上。呆れるわよ』  遥香姉さんのぼやきを思い出す。 「これでもまだ退()かないなら、取っておきを出すわよ」 「何…」 「確かキスをしてるのがあったのよね」 「う…っ」 「腕を組んでホテルに入っていくところも」 「そ、それはっ」  大成の顔色が青ざめていく。 今度は謙先輩が彼を壁際に追い詰めた。 「わかったな。恥を(さら)したくなければ大人しくしろ」  大成は情けない顔でこくこくと頷いた。 「いくらだ。いくらでその写真を譲ってくれる?」 「お前、バカか」 「ひいっ」  壁に(てのひら)をついてずいっと先輩が近づくと、大成はさらに壁に同化し始めた。 壁ドン あたしもされたことないのに… 「んなことしたら脅迫になるだろーが」 「ああっ、そうっすねっ。すんませんっ」 「お前が梨奈から手を引けばそれで済む話だ。だが、調子に乗ったらどうなるか、覚えとけよ」 「は、はいっ」  先輩は解放するかのように、大成から離れた。 彼はそれを合図にさっさと逃げ出した。その背中を見送って視線を戻すと、先輩は床に座り込んで壁に寄りかかり、静かな寝息を立てていた。 先輩も  酔って豹変すること あるんだ… 飲み会であたしを守ってくれた先輩も素敵だったけど、今日の謙さんもカッコよかったよ。あたしは(かたわ)らにしゃがんで、愛しい先輩の前髪にそっと触れた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!