天使の羽根

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数年ぶりに、背中の痛みから解放され、忘れていたような時間もあった。 学生生活も終わり、それまでとは、全く違う空気感の世界へ行かなければならなかった。 社会人になり生活が一変する。が、なかなか学生気分が抜けない日々。 毎日、通勤電車のラッシュに負けそうになる。通勤ラッシュは化け物だ。 電車がホームに止まった。 「ドアが開きます」とアナウンスが流れたら、そこからの戦いに挑む者たち、無言のまま、あっという間に人の波にのまれていく。 なんだか、わからないまま弾かれていく者、ハナから諦める者、負けるもんかと再度挑む者。 ホームで観戦しているように、思わず再度挑戦者に拍手を送りたくなる。 通勤ラッシュ経験者は、きっと、どんな過酷な出来事にも負けない勲章をつけているに違いない。 毎朝、電車の悪魔や天使に紛れて、もみくちゃにされながら、その日の体力を消耗していく。吸い取られていくとも言う。 何にも増して、鍛えられていく。たかが、通勤ラッシュ。されど通勤ラッシュ。侮れない。 学生時代も、通学ラッシュ経験はあったが、学生と社会人では、車内での居心地は全く別物である。 電車から降りると、そのまま帰宅したくなる日が続く。 急に息が苦しくなって、呼吸の仕方を忘れたような気分になっていた。このまま、心臓が止まるのかと恐怖に押し潰されそうになる。 毎日、爽快に目覚め、楽しく出勤する事に努めるが、、、そもそも、努めることではない、、、。 地球で生きていれば、誰しも、社会へ否応なしに出なければならない時はくる。 出勤時間を変えてみる。靴は、ヒールなんぞ履かずにスニーカーで軽快に出勤してみたり、、、。 そこは、都内の和光と時計塔がある街だった。その当時、最近まで学生だった人間が毎日通う場所ではないとも感じた。 「大人の街」だ。 街には幾つもの顔があり、朝と昼と夜の顔。平日の顔、休日の顔。 毎朝、中央通りを歩く翼が折れた天使や、翼をなくした悪魔が色んな姿に見える。毎日、それぞれが、戦っているようにも見えた。 日曜日以外、毎日通うのだから、通る道も、日替わりランチのように選べるようになり、悪魔と天使の見分け方は、「日々これ鍛錬」だと実感してきた。
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