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プロローグ ロリババアにザ●束を
幼務所。
そう呼ばれるものがこの世には存在している。
人間の理から外れた存在がいることが認知されてから随分と経った。
どれだけ経ったのかもうよくわからないくらいには経った。
エルフ。
サキュバス。
ヴァンパイア。
ゾンビ。
グール。
その他もろもろの人外の類。
それら人外が人間社会にいると人間自身が気づいた当初はすったもんだあったらしいが、今現在は特に大きな諍いなく、相互にある程度干渉しつつ、ある程度無関心を装いつつ、近しい地理的範囲の中で時には交じり合いながら、時には斥力が働いたように離れながら暮らしてきた。
様々な伝承の中の人外は人間に数多の危害を加える存在として語り継がれてきたが、現代の人外は人間同様倫理観が徐々に形成されてきており、むやみやたらに人に害をなす存在ではなくなっている。
そもそも食豊かなこの時代、わざわざ捕まえにくい人間を主食にする必要もないのである。
まあその多寡は人外によりけりではあるが、人外にとっても人間社会の発達は多くの恩恵をもたらしている。
しかしそんな倫理観高めの人外の中には老いることのない容姿を利用して言葉巧みに人間を騙す奴らも存在していた。
そう、悪性のロリババアである。
社会の癌とまでは言わないが、そこそこ厄介な存在である。
基本的に人間以外の種は人間よりも圧倒的に長い寿命を持ち、若くいれる時期もとてつもなく長い。
その一方で、思考力などは発達をしていく。
そのため、人間にとって幼い・若い見た目は油断の対象となる。
そこを利用して、中身が狡猾なロリババアどもは様々な悪事を働くのであった。
もちろん人間社会にも悪い奴らは存在するが、彼ら彼女らの寿命は短く社会影響を及ぼす期間もたかが知れている。
刑務所にチラッと放り込めばお仕舞いである。ひゅう!
しかしロリババアはその比ではない寿命のため、長期に刑務所に入れることは公費負担が大きく、さらに長年培われてきたパーソナリティに基づいて行動するため、更生は不可能であるとされてきた。
そんな中、民間の大企業の出資によって彼女らの更生施設が誕生することとなる。
出資したのはかの有名なぺドナルド・ロ・リンチである。
彼は稀代のロリコナーであると世間一般には言われているが、それは間違いである。
ロリババアはあくまでもロリとババアの融合体。
彼はそこに意義を見出してきたのだ。
ロリババアが好きだからロリコンというのはあまりにも短絡的である。
思考停止である。
その筋の識者からすれば笑止千万。
ロリの中身もロリならそれは単なるロリである。
それ以上でもそれ以下でもない。
しかしロリババアはロリの中にババアが入っているのである。
別物である。
別物。
そう、絶対別物なのである。
ロリコンではない。
ロリコンなはずがない。
考えるな、信じろ。
それは四隅に小分けにして置いといて、彼はロリババアを心の底から愛していた。
見た目は子ども、頭脳は完熟の域。
そんなギャップにドはまりしたのは彼が十四歳のときであった。
父親が隠し持っていたアダルト映像作品「ロリババアにザ●束を」を見たときの衝撃を後年彼はこう語っている。
『見た目の幼さに反して口、手、腰、それら全ての動きがまるで熟練の宮大工のような繊細さを兼ね備えていた。奪われた。私の心も体もムスコも人生も、全てがロリババアに奪われてしまったのだ』
ちなみにインタビューをした記者は後年こう語っている。
『いや、覚えてねえよ』
さて、それはさておき、彼はロリババアを性的対象としてごりごり意識すると同時に、ロリババアの社会的境遇についても深くその思考を巡らせることとなる。
真面目である。
今の社会のマジョリティは人間である。
人外もある程度人間社会に溶け込む形で存在しているものの、寿命や価値観の違いからどうしても馴染めない者も一定数存在している。
そしてその歪みが生じさせるロリババアによる悪事。
果たしてそれは社会が悪いのか。
それともロリババアが悪いのか。
性癖と社会の構造を想いながら彼は思い出のビデオを三日三晩見続けた。
名作のため彼が還暦を過ぎてからデジタルリマスター版が配信されている。
しかし彼はあえて画素の荒いVHS派であった。
そして、四日目の明け方。
年甲斐もなく目とムスコを腫らした彼は、晴れ晴れしい顔でシンプルな結論を導き出す。
―――よし、死ぬ前に幼務所作っとこう
思い立ったが吉日。
彼はその財力を生かして様々な罪を犯すロリババアについて調査・分析を行い、彼女らがどのような背景を持ちながら犯罪に手を染めているのか、そしてどのような施設を作り上げれば彼女らが正しい道に戻ってこられるのかを会社の役員たちと議論した。
ちなみにリンチは全国に四百店舗を展開するドラッグストアの社長であった。
突如として行われた社長の性癖開示。
戸惑う役員。
ドン引きする秘書。
燃え滾る社長の情熱。
感化される役員。
辞職願を出す秘書。
気が付けば十名いた役員全員が社長宅で「ロリババアにザ●束を」を視聴していた。
秘書はそれ以来採用できなかった。
秘書業界で噂が駆け巡ってしまったようだ。
こうして日本を代表するドラッグストアチェーンは幼務所の設置に乗り出したのである。
そしてリンチが構想を打ち立ててから三年後、幼務所は完成する。
後年、リンチは言う。
『実現できないことなどない。もしあるとすればそれは単に情熱が足りないだけだ。私の様に情熱を持て。性癖も持て。それだけで多くのことが実現に近づくんほぉ』
後年、インタビューをした記者は言う。
『いやだから覚えてねえって。もう来んなよ。なんの嫌がらせなんだよ!』
それはさておき、リンチによって開設された幼務所は当初、まさに彼の理想を体現する形で多くの犯罪に手を染めたロリババアを収容することとなった。
もちろん、ロリババアも一筋縄ではいかない。
収容するためにはそれなりの労を要した。
しかしそこはさすが社長。
リンチはうまく人外各種の長達と交渉することで、人外の手を借りることにも成功していたのである。
さすがにその時は性癖を隠した。
能ある鷹は爪以外も隠すのである。
そしてその縁で多くの人間と人外のハーフが生まれたのはまた別のお話。
しかしリンチの死後、徐々にその花園は姿を変えていくことになる。
四天女王。
そう呼ばれるロリババアたちの手によって、徐々にその姿を、変えていくこととなる。
「ここにいるんだな。あいつが」
その花園に一人、若い男が足を踏み入れようとしていた。
彼はリンチと同様、高い志を持っていた。
その志は高く高く天をも突き抜けるほどであった。
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