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チェルの可愛さに力は上がったが。瘴気幻影のワーグは強く、シシと同格の力を持っているように感じた。体をぶつけ合い、戦い傷を負うシシの体と苦しげな声に私の瞳は潤み、辺りの景色をぼやかした。
――ダメダメ、集中しなくては。
「……マ、ママ、痛いの」
「え?」
私の頬をつたい流れた涙がチェルの頬に落ちて、涙に気付いたチェルの小さな手が目から離れ、私の頬を触った。こんな大事なときに泣いてしまうなんて、必死に戦うシシが気にしてしまう……けど、はじめてなの。愛しい人が必死に戦う側で、浄化魔法を使うのは。
(王太子妃のとき、ルールシア殿下は浄化の場所へは来なかった。いつも騎士団に任せていて、私はずっと1人で浄化していたし――私には独学で身につけた魔法しかない)
私は聖女じゃないのだから、いま己の力で踏ん張るしかない。
「大丈夫、ママは大丈夫よ……チェルは目を瞑っていなさい」
止まらなく流れる涙と、震える声での浄化。魔力が足らなくなったら、アイテムボックスから回復薬を取りだして飲み私は浄化し続けた。
どれくらい経ったのかわからないが、ドワーフ達の住処と洞窟の瘴気を払っている。魔力切れを防ぐ為、飲み干した、魔法回復薬の瓶の数が増えていく。
(すざましい怨念……なんて濃い瘴気なの?)
私達の浄化が失敗すれば、ドワーフの住処だけじゃなく。リポの森にまで瘴気は流れ、海の神ポストンの加護の力すら、跳ね除けてしまうかもしれない。
「アーシャ、ワーグの力が弱まった! あと少しだ、がんばろう!」
「わかった、がんばるわ」
シシの励ましの声に力が増す。これで最後にすると袖で涙を拭き、ありったけの魔力を乗せて浄化魔法を唱えた。
グワァ――――――――!
苦しむ雄叫びをあげ、瘴気幻影のワーグの体は黒い霧となり消え、辺りの瘴気は浄化された。――よかった。私たちはやったのだ……私はすぐ、傷付き動けないシシに駆け寄り、回復魔法を唱える。
「【ヒール】」
真っ赤に染まる傷口がふさがり、傷が癒えていく。痛みが癒えて動けるようになったシシに、ポーションを渡した。
「アーシャ、ボクの傷は癒えた。ほら、体だって動くから、そんなに泣かないで……」
シシは、私の前で体を動かす。
「だっで、だっで、シシ……が」
「もう大丈夫だよ、アーシャも疲れただろう」
「……うっ」
こんなに涙を流して泣く私を見たのは、はじめてなのだろう、シシがどうしたものかとアタフタする。そんなシシに私は、チェルを抱っこしたまま抱きついた。
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