きみは特別

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その日、わたしは学校の屋上に、一馬くんを呼び出した。 「一馬くん、はい!付き合って3ヶ月記念のプレゼント!」 「わざわざありがとう。……でも、いらないよ」 「……え!?」 一馬くんはプレゼントの包みを片手で握りつぶし、足元に投げ捨てた。 「……恋人ごっこはもう終わりだからね」 一馬くんの瞳が、血のような赤色に変化して、背中からは、大きな黒い羽根が生えてくる。 その姿はまるで、そう…… 「俺の本当の名前はルシファー。傲慢の罪をつかさどる悪魔」 「ウソ……」 一馬くんが、悪魔? 目の前で起きていることが現実だなんて、とても信じられない。 呆然とするわたしを前にして、彼は楽しそうに話しつづける。 「美咲を見つけた時、この子だと思ったよ。……自分からは何も努力しないくせに、プライドばかり高くてさ。俺のおかげで可愛くなったくせに、周りを見下して、“勝ち組”気分にひたってただろ?そういう傲慢な魂の持ち主を探してたんだ」 「ウソ……だって……お姉さんは……」 「ああ……彼女も悪魔さ。俺たちは普段、人間に化けて、あらゆる場所に潜んでいるからね。事前に話して、協力してもらっただけ」 「そんな……どうして……?」 「どうして?それは、美咲が贄だからだよ。……ほら、見てごらん」 いや……いやいやいやあっ!! 手が、足が、わたしの身体がどんどん消えていく。 「なんで……?わたしのこと、特別だって……」 「そう、きみは特別。……なにせ、地獄の王に捧げる贄だからね」 薄れゆく視界の中で、彼は優雅に微笑んだ。 黒い結晶になった美咲の魂を、ルシファーは指でつまみ拾い上げる。 「思ったとおり、どす黒く醜悪な美しさだ。きっと王もお喜びになる」 そして、その場から姿を消した。 無惨につぶれたプレゼントの包みだけを残して。 【おわり】
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