アンニュイなエクレア

8/10
前へ
/10ページ
次へ
 月日は流れ、二年ほどたった。  もはや世間はアンニュイ・エクレアのことなど忘れ、夏木ユウコのことを純粋に女優として見ていた。 「お疲れ様です、一旦休憩でーす」 「楽屋に差し入れ置いてますので、良かったら召し上がってくださいね」 撮影のピンと張り詰めた空気が緩む中、若いスタッフたちが親切にユウコへ声をかけていた。 「ありがとう、すこし休んでくるわね」  今日もドラマの撮影を終えたユウコは楽屋へ入っていった。  それを見送ったスタッフたちは、ユウコのことを話していた。 「いやぁユウコさん、今日も良かったですね、最近ますます演技に磨きがかかっているよ」 「少し前までは元気なだけの女性だった気がするんだけどね。いまは、演技にも表情にも陰りがあるっていうか、ミステリアスというか」 「もともと美人だったしね。でもあんなに若いのに、どうやってベテランみたいな、くすんだ演技ができるようになったんだろう」  若いスタッフたちに混ざって、業界経験の長いカメラマンも話に入ってきた。 「僕は昔、CMとかやってるときからユウコちゃんを撮ってるけどね。確かに昔とは印象がだいぶ変わったよ。ここ二年くらいCMとかで見なくなって心配したけど、女優になって、イキイキとしているのが伝わってきて嬉しいよ」  さらにベテランのスタッフも話に入ってきた。 「ほんとですね。ユウコちゃん、なんというか女優としてこんなに化けるとは思わなかったですよ」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加