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次の瞬間、女性がぐにゃりと身体をよじらせて歩道に倒れた。
頭が割れて血だまりをつくりながら。
同時に上から発狂するような声が響いてきた。
「工事中の作業員が建物の足場から工具を落とし、
それが女性の頭部に命中した。もちろん女性は即死。
そして工具を落とした若い作業員の人生も、おしまい」
実況のように、説明のように、兄が言った。
「兄ちゃん、相変わらず口が悪いな」
先程まで俺に『上からくるぞ』と、言い続けていた少年。
それが兄だ。
死んだ兄が幽体のままで存在していて、いつも俺のそばにいる。
そして事件を予知すると俺に警告してくるのだ。
女性のそばには確かに、血で濡れた銀色の大型の工具が落ちていた。
上でも下でも悲鳴と叫びが響き合うなかで。
俺は静かに歩いて立ち去った。
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