天井裏に誰かいる

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 仮に、乱歩の「屋根裏の散歩者」よろしく何者かが我が家の天井裏にひっそりと潜伏していたところでたいした実害がなければ大勢に影響はない。甚だ不気味ではあるが、割り切って当面のあいだ無視するのも一手ではなかろうか。  そんなネジの外れた理屈でどうにかあなたをなだめ、自分を落ち着かせるのに私は躍起になっていた。現実逃避である。    とにかく、得体の知れない「何か」がヒタヒタと足音をたて我が家に忍び込み日常を侵食しようとしている。突き詰めれば不穏はその姿をくっきりと露わにするにちがいない。が、それを目のあたりにする覚悟が私にはなかった。  日増しに激しさを増すあなたの妄執は言動の端々に見てとれたが、その「異常」と正面から向き合うには私たちはあまりにもあなたという存在に依存しすぎていたのだ。
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