天井裏に誰かいる

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 不動だった世界がひび割れ、目の前で音をたてて崩れていく。  電話越しに私ではない何者かに向かい延々と毒づき、嘆願し泣きじゃくるあなたからの昼夜問わずの一方通行コール。口を挟む余地もなくプツリと切られたあとには、ポッカリと開いた胸の穴に氷点下の空虚がドクドクと流れ込む。  頭の芯まで冷えきったあと、しばらくは呪文をかけられたごとく体が固まったまま、重い鉄の鎖で繋がれているように立ち上がることもできない。  出口の見えない暗闇のトンネルの中を来る日も来る日ものろのろと這いつくばり、私はそれでも許されたかった。  あなたのことばをどうにか理解しようとすることで。  ここにいる自分だけは味方だと伝えることで。  あなたにただ明るく笑ってほしかった。    どこまでも相容れない現実と闘い、期待と落胆をくりかえすひとりぼっちのあなたが流す滂沱の涙。 「お母さんの言うとおりだったよ」  いつか私がそう言ってニュースを持って来る日が楽しみ。と無邪気に微笑む顔を見るたびに思う。  ならば、現実のほうをこそ歪めてしまえばいい。胸底からふつふつと湧き上がる気持ちを止められない。  いっそ共に閉じた世界に生きるのもいい。  いつもあなたの手をつかもうと死に物狂いの、あの子を今度こそ受けとめてくれ、どうか。  どうかお母さんが笑ってくれますように。  幼い頃から願いはずっとそれだけだった。  
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