中編

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中編

『今から行っていいか?』 絆理から連絡があったのは、時間的にみて二次会の最中であるような、いやに中途半端な時間だった。 「飲み会って言ってたよなぁ……。」 会社帰りにお互いの部屋を訪れてそのまま泊まっていくこともあるけれど、基本的に飲み会などには参加しない俺と仕事が忙しい絆理は生活リズムが微妙にズレている事もあり平日会う事はあまりない。 絆理にはもっと頻繁に俺に会いたいと言われるが、素直に頷けないでいる。 多忙な絆理にわざわざここまで来て欲しくはないし、俺の世話を甲斐甲斐しく焼きたがる絆理の態度に少し居たたまれない気持ちがあるからだ。 仕事で疲れているのにズボラな俺の部屋を見苦しくない程に整え、尚且つ夜食らしいものも作ってくれる。 「疲れてるだろうし、そんなやらなくていいから。」 「俺がやらないと一生(いっせい)がゴミに埋もれる。」 いくらズボラでもそこまでじゃない、って何度言っても絆理に納得する様子はなくて、俺の為にゴミを集めて朝食用にと野菜たっぷりのスープを作ってくれる。優しくて温かい味だ。 所謂スパダリというのだろうか。彼が俺の事を好きな理由が今もって分からない。 今は俺も絆理の事を好きだと自覚はあるけれど、付き合い始めた頃はそんな絆理の態度に恐縮することしきりで、ただただ緊張するばかり。俺自身の気持ちもよく分からなかったから、やや強引な絆理に流されるばかりだった。 それでも絆理に抱きしめられると全身から温かな気持ちが溢れてきて、ずっとこのまま寄り添っていたい、という気持ちになった。少しずつ浸食されていく布地のように、じわじわと絆理の事を考える時間が増えてきて、いつのまにか俺の心は絆理で一杯になってしまった。 キスされた瞬間の甘やかな感触。 抱きしめられた時の緩やかな酩酊感。 毎日会いたくなる気持ち。 全てが初めてで戸惑うことも多かったけれど、絆理の事が好きだと自覚してからは、そんな感情もまた愛おしいものとして変化した。
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