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「そんな緊張する話じゃないって。あ、いや、待てよ。緊張してもらわないといけないのかも。いや、でもそうしたらプレッシャー感じたりするか…それは不本意っていうか…。んん~とりあえず座ろっか。」
固まったままの一生を促してソファーに座らせる。
一生の部屋のソファーはコンパクトタイプのローソファーで男二人が座るには少し小さい。座った瞬間身体が沈みこむけれどお互いの距離が近いのが良い。
これから真面目な話をしようとしているのに、傍にある一生の身体から立ち上る仄かなシャンプーの香りが鼻をくすぐる。
なぁ、これヤバイ。
俺は誘惑を振り払うように身を起こすと、一生との距離をワザと取った。
そんな俺の仕草に一生はちょっとだけ驚いたような顔をして。そして俺から視線を外した。
普段なら、そんな一生の変化を見逃したりしないのだけれど、今はそれよりも伝えたいことがある。
俺は一生の手を取って一世一代の大勝負。
ドキドキと自分の鼓動が脈打つのを感じる。
「あ、あのさ、一生…。あ、あのな。」
ああっ、何でこんなキョドってるんだよ。
さっき緊張する話じゃないって言ったばっかりじゃんか。
ほら、俺がこんな風だから一生にも緊張が移ったみたいで顔が強張ってる。
怖がらせたい訳じゃないのに。
不安がらせたいわけじゃないのに。
ただ、俺にむかって笑顔でいて欲しいだけなのに。
こんな格好悪い所見せたくないのに。
沈黙が続いて、一生が居心地悪そうに身じろぎをした。
少しずつ顔色まで悪くなっているようで早く言わなければっ、と焦ってしまう。
そんな俺の様子を見て、一生が何か言おうと口を開いた。
まさか、ハッキリしない男=俺なんて嫌い、とか言わないよなっ。
えーい、ままよっ。
とにかく言ったもん勝ちだ!なんて思いながら俺は一生に向かって叫んだ。
「一生っ。何も言わずにこれに名前を書いてくれっ。で、俺の生涯のパートナーになってくれっ」
俺の言葉に口をパクパクさせて驚きに身を固めた一生の姿があった。
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