中編

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++ 「一生っ。何も言わずにこれに名前を書いてくれっ。で、俺の一生のパートナーになってくれっ」 突然言われた絆理からの言葉に衝撃を受けた。 え? え? ええっ? えええっ!! 咄嗟に言葉が出ない。 何それ。 そんなの想像してない。 知らない。 そんなのどうしたらいいのか分からない。 だって一生のパートナーって?? この用紙って一体何? んん?も、もしかして、もしかしてアレ?。パートナーシップ制度ってやつ? え、え、待って。それって結婚と同じだったりする? 待って待って、俺たちまだ社会人なり立てだぞ。 そんな若い俺たちが一生のパートナーなんて関係になって大丈夫なんだろうか。 だって、一生だぞ。一生一緒のパートナーなんだぞ。 第一、お前そんなキャラじゃないだろう。 心臓バクバクしてます、みたいな顔で俺に向かってプロポーズ?するなんて、想像できるわけないじゃん。 ちょっと、まって。 これ本当の事なのかな。 も、もしかして夢、見てたりするのかも。 だって可笑しいじゃないか。 俺が隠し事を話そうと決心した途端、絆理からパートナーになってくれだと申し込まれるなんて。 俺の深層心理がそれを望んでいたって事なのかな。 あああ、もう分かんないっ。 でもさ……これ、現実ならいいな。 だって、男同士とか、年齢とか、そういう諸々の厄介事すっ飛ばして俺と一緒にいたいって言われた訳じゃないか。 本当に俺の事を大切に思ってくれてるって証拠じゃないか。 俺みたいな平凡で取り柄のない男をパートナーに選んでくれたなんて、緊張した顔してさ。 普段の何でも出来ますって余裕のある顔じゃない。 不安気に揺れる眼差しとか。 密やかに漏らす吐息とか。 全部、全部、俺からの返事が鍵を握っているんだって分かる。 何かそういうの、もうダメだ。 俺、絆理の事好きだ。 スペックが釣り合わないとか。 男同士の生産性のない関係とか。 この先の不安とか。 色々心配する事はあって。きっとこの先後悔する事だってたくさんあると思うけど。 でも離れたくないと心の底から思う。 絆理からいらないと言われるまではずっとそばに居たい。 彼と一緒に生きていきたい。 そう素直に思った。 だから……。 俺は絆理が握ったままだった手をぎゅっと握り返した後小さく「うん」と頷いた。
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