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「一生っ、一生っ。」
小さく頷いてくれた一生の返事に舞い上がった俺は、思春期のガキみたいに一生の唇にむしゃぶりつく。
「ちょっ、まっ、まってっ、うっんっ、まっ…。待ってって!!」
必死に抵抗する一生に、
「んっ、無理っ、はぁ…一生、本当に?本当にOKしてくれたんだよな?」
「ほ、ほんとっだ、あっ、ちょ、ま、待ってってば…んあっ。」
「信じられないっ。はぁ…好きだ、好きだよ、一生…ん。」
顔中にキスの雨を降らせながら何度も確認してしまう。
不安がなかった訳じゃない。
一生の気持ちに確信があった訳でもない。
好かれている自信はあっても、それがどの程度の好意なのか測りかねていた。
それが一生がコクンと頷いてくれた瞬間、あれだけ巣くっていた不安も恐れも何も無くなった。
一生が俺と共に歩むと約束してくれた事が何よりの俺への気持ちだと思ったからだ。
「はぁ…何か暴走…。一生がOKしてくれると思ってなくて…。」
「はぁ、はぁ、そ、そんなに…自信なかったの?」
「ん……五分五分かなって……。」
ちゅっと軽くキスを落とすと、一生を抱きしめて幸せを噛みしめる。
未だに心臓のドキドキが治まらない。
「あのさ…今更なんだけど本気?絆理、俺とずっと一緒にいるって言ってるのと同じだよ。」
「当たり前だろ。こんな申し込み、冗談だって言えないよ。」
一生の声は思いの外冷静で、このまま一気に一生を貪るつもりになっていた俺の気持ちを少し冷やしてくれた。
「じゃ、じゃぁさ…。」
言い淀む一生の視線は、俺が差し出したままの一枚の紙に釘付けで。チラチラと眺めてはどうしようか逡巡するようにキョロキョロと視線を外す事を繰り返していた。
「一生…‥?」
促す事2回。
それまで何度も口を開いては閉じる動作を繰り返していた一生は、次に俺が声を掛けるよりも先に観念したようにぽそぽそとした声で口を開いた。
「あのさ……俺、今からコレを書いてしまうから。だからさ、それを受け取ってからもう一度絆理の気持ちを聞いてもいい?」
何故そんな事を言うのか一生の意図は分からなかったけれど、今すぐ用紙に名前を書いてくれると聞いた俺の気持ちは喜びに溢れた。
「ん、わかった…。一生の言う通りにするよ。何を心配しているのか分からないけどさ。一生が何をしてもこの気持ちは変わらないと思うけどね。」
ニヤリと笑った俺の顔に、一生は力なく笑みを返した。
その顔に既視感を持ったのは、いつも俺が見ているどこか寂し気な顔と同じだったからだが幸福感に浮かれていた俺はそれに気付けないでいた。
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