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後編
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スーハーと深呼吸をして、よし、と気合いを入れる。
目の前には絆理が貰ってきたというパートナーシップ制度の申請用紙。
昔何かのドラマで見た婚姻届と同じように2人の名前を書く欄と現住所、本籍地など主要な情報を書き込む欄がある。
これを書きあげたら絆理はどんな反応をするだろう。
気付くかな?気付くよね?
騙された!と怒るだろうか。
変なの!と笑い揶揄うだろうか。
こんな事一つで絆理の態度が変わるとは思ってない…けど。やっぱり同じじゃない。変わるモノはきっとあるんじゃないかと思うと怖くてしょうがない。
それほど上手くない字が緊張から、ぐにゃぐにゃと線の定まらない歪な字となった。
自分の名前なのにまるで初めて書くかのようだ。
自信がなくて臆病で。
俺そのものみたいな字に泣きそうになるけれどグッと堪えて書き上げた。
だって、ちゃんと「好き」だと伝えたい。
絆理の目を見て話したい。
俺は尻込みしそうになる気持ちに蓋をしてリビングへ戻った。
++
「おまた…あ、れ…絆理?」
俺が書類を書いている間、ずっと纏わりつかれそうになったので絆理にはリビングのソファーで待っているように言い置いていた。戻ってくると絆理は穏やかな寝息を立てて眠っていた。
よもや寝てしまうとは思ってなかった。
「そか、飲み会帰りだもんな…。」
俺のソファーじゃ絆理の身長には物足りない。横になっている絆理の足は膝から下は全てブラブラと宙に浮かんでいた。
「ふふ、おっきいなぁ…。おい、俺にもその身長分けてくれよ?」
ごく平均的な俺は身長もまたごく平均的で。
高くもないし低くもない。それは一般的に安心される要素ではあるだろうけれど、これまで一度として男らしいとは言われたことはない。
俺が唯一男っぽいかも?と言われたのがアレなんて…。
「ぜったい絆理には言えない…。」
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