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急にウワァと泣き出した俺を見て絆理はビックリしている。
責められもせず、揶揄われもせず、これまでと変わらない態度で接してくれる恋人の姿に安堵したのか、はたまた何も変化がない事が悔しくてたまらないのか。俺にも泣いてる理由が分からない。
感情はごちゃごちゃになって、俺の中で渦を巻く。
安心したのに素直に良かったと言えない。
絆理が俺の名を知っていたのにずっと『いっせい』と呼んでいたのはどうしてだ、とか。
いつから俺の本当の名前を知ってたのか、とか。
色々聞きたいことはあったけど。これだけは聞いておかなくちゃ。
涙でグズグズの顔を上げて絆理へ問いかける。
「絆理ぁ。俺のパートナーになってくれる?」
「なるっ。」
「『いっせい』じゃなくて『かずお』だけど、それでも良い?」
「それ気にしてたのか。そんなんで俺のお前への気持ちが変わるわけないだろう。というか、そんな軽い気持ちだと思われていた方が問題だな。」
絆理の瞳がキラリと光る。
落ちそうになっていた涙は鳴りを潜めて思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「え、いや、そ、そうじゃなくて。」
「何がそうじゃないって?」
俺は何とか自分の気持ちを分かってもらおうと今まで思っていた事を話した。
「お、俺だって絆理の気持ち信じてたっ。でもお前が『いっせい』って俺の事呼ぶたびにそれは俺の名前じゃないのに。本当の俺じゃないのにって思っちゃって。ちゃんと言わなきゃ、俺の本当の名前を教えなきゃって思ってたんだけど…そのうちさ、絆理の声が『いっせい』って呼ぶ声が凄く優しくてさ。言い出せなくなっちゃったんだよ…。『かずお』なんてダサい名前だって知ったらもうお前に『いっせい』って呼んでもらえなくなる。でも『かずお』って呼ばれる声に優しい響きがなかったらと思うと怖くなって…。」
「いっせい…」
「ん、ありがとう。まだその名前で呼んでくれて。でも俺『かずお』だからさ。も、止めないとな、ソレ……。」
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