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『いっせい』、と呼ぶ声は本当に優しくて。俺をとても大事にしてくれていると声音だけでも分かる程だった。
同じ人物なのに呼ばれる名前が違うだけでその響きも変わってしまうかもしれないと思ったら恐ろしくなった。
そこに同じ気持ちがあるはずなのに。
優しい音が感じられないだけで絆理の思いを疑う事になるのが怖かった。
「ごめん…ごめん……俺の訳わかんない理由のせいで絆理の気持ち信じられなくて…。」
何度も謝る声を遮るように
「――――――かずお、好きだよ。」
絆理の声が聞こえた。
優しい優しい声音だった。
俺の名前を愛おしそうに呼ぶその声は紛れもなく絆理のもので。
俺の脳にダイレクトにその音を届けた。
「お前が不安に思うなら何度でも呼ぶ。お前が安心できるように何度でも繰り返す。俺はお前がなんて名前でも好きだし、その想いが変わる事なんてあり得ないだろ。それでもお前が俺の気持ちを信じられないのなら、俺はもっとお前に俺の気持ちを届けないといけない。呼ぶ名前が違うだけで本体はお前だろ。『いっせい』も『かずお』も俺にとっては同一人物で俺の一番大切な人間なんだから。」
「ごめん、ごめん、絆理……。」
馬鹿だ。俺、馬鹿だった。
名前で気持ちが変わるだなんて、俺自身を見ていないと言っているのと同じだ。それは絆理の俺への思いを蔑ろにしている事と同じだと、何で分からなかったんだ。
絆理の腕が温かい。
この温かさは絆理の気持ちそのものだ。
俺の不安も悩みも何もかも包み込んでくれる。
守られていると安心させてくれる。
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