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オサキ憑き
オサキ憑き、と言う言葉を知っているだろうか。
『狐憑き』ならわかるかな。
昔から何故か狐に好かれる人たちのことなんだって。
オサキと呼ばれる狐のカミサマは、神と言うよりは妖怪で、ご機嫌なときはとり憑いた先を栄えさせる。
でもいいことばかりじゃない。
機嫌を損ねたら、それこそ目も当てられないくらいに悲惨なことになるんだって。
オサキは好きな人にとり憑くんだ。
とり憑いた人の気持ちの大きさが、オサキの力になる。
感謝や好意や嫉妬や悪意、全部がそのまま、オサキの力になるんだ。
誰彼構わず闇雲にとり憑かれてセーブできなくなったり、どこかに行っちゃって恩恵がなくなるのは困るからって、この地域ではあえて一つの家にとり憑かせた。
それがオレが生まれた家。
尾咲。
オレに憑いてるオサキはほぼ本体で、オレの気持ちはダイレクトにオサキの力になるんだそうだ。
その尾咲の家につくオサキ、本体とは別に、自分の小さな分身を気に入った人にとり憑かせたりする。
本来は小さい分身でも悪霊としてお払いされるのは苦痛らしくて、あまり他の誰かにはとり憑かないんだそうだ。
そのオサキが、すごくすごく欲しいと思ったのが、ゆかりちゃん。
小さい頃のゆかりちゃんが、オサキが化けた張り子の狐に絆創膏を貼ってくれたのが嬉しかったんだってさ。
小さいうちに『花嫁』にして連れ去ろうとしたけど、大泣きするゆかりちゃんにほだされちゃって、分身をとり憑かせて見守るだけにとどめたんだそうだ。
オレがゆかりちゃんと出会ったのは、ゆかりちゃんの結婚式の日だった。
知り合ったとたんに失恋とかないよ! って思った。
ゆかりちゃんの奥さんになった人はオレの親戚で、あんまり好きじゃない人で。
多分、ゆかりちゃんのことがなかったら悪い人じゃないから、普通に親戚の人でいられたんだと思うけど、オレにとってはゆかりちゃんのこと横取りしていった人だったから。
だからオサキと相談したんだ。
オサキは、オレとゆかりちゃんが、オサキの手の届くところで幸せだったらそれでいいと言った。
オレはゆかりちゃんが欲しかった。
だから、オレが成人するまではゆかりちゃんは親戚の人に預けておいて、頃合いを見て『花嫁』にしようねって、約束をした。
そして、今夜がやってきた。
ゆかりちゃんは、小さいときからずっとオサキに憑かれていたから、誘導されていても気がつかない。
解せない。
解せない。
そう思いながらも、周りに逆らいきれずに『花嫁』になって、オレの手の中に落ちてきた。
オサキが姿を現して、オレの髪を撫でる。
それから嬉しそうな顔で、ゆかりちゃんの額に浮かぶ汗を舐めた。
「ぅ……ぁ……あ? なに……」
ゆかりちゃんが、びくっと身体を動かした。
まだ繋がったままなのに、そんなことをしたら誘われているみたいで困ってしまう。
かわいい。
嬉しい。
もっとゆかりちゃんを食べてもいい?
『かわいい我がえにしよ。たんと愛されて、幸せにおなり』
ぼんやりとしたままのゆかりちゃんの唇を、オサキが舐める。
うん、いいよ。
他の誰かなら邪魔をするなって思うところだし、かわいいゆかりちゃんを見せたくないって怒るところ。
だけど、オサキならいい。
一緒にたくさんゆかりちゃんを愛してあげようよ。
「オサキ、ありがと」
『何。大したことではないさ』
「これからもよろしくね」
『応』
はたりと尻尾をふるってオサキが背を向けてくれたから、オレは誘われるままにゆかりちゃんを堪能することにした。
『なあに、お前たちが幸せであればそれでよいのよ。欲も思い故。お前たちの気持ちで、我の力もいや増すからなあ』
end
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