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不可解な話声
読書にふけると、あっという間に時間が過ぎる。
赤い空間に、始めは違和感があったが本の内容とも合っていて物語にどっぷり浸かることができた。
読み終わった本を閉じ、テーブルの隅に置いた。
少し余韻に浸り、隣りに視線を移した。
「はい、よろしくお願いします」
緊張した声が聞こえてきた。
音楽は聞こえないようになっていても、声は通るらしい。
背丈以上ある仕切りで見えないようになっている。
どこかで聞いたような声だった。
「アルバイトの経験はありますか」
「はい、郵便局とかチラシ配りとか絵のモデルもやりました」
「当店で働いてみようと思ったのは、なぜですか」
「前々から目をつけていたんです。
おしゃれなカフェで、働いてみたいと思っていたからです」
「では、採用です。
早速ですけど、研修のDVDを見てください」
少し間があって、抑揚の少ない声で仕事の説明が始まった。
バイトの面接をしていたのか、と軽く息をついた。
大学生が小遣い稼ぎにちょっと働くには良さそうだった。
「では、ええと、岡嶋 ルイさん。
承諾書と誓約書にサインをしてください」
ルイは耳を疑った。
同姓同名だった。
後ろへ向けていた首を戻し、座り直そうとする。
足を戻そうとしたとき、膝でテーブルを勢いよく蹴り上げてしまった。
ガンッ、と驚くほど大きな音がして一瞬目を閉じ顔を顰めた。
目を開けるとボールペンを持って書類を書いているところだった。
承諾書に今日の日付と、「岡嶋 ルイ」と書いてある。
「それじゃあ、こちらも」
誓約書には就業規則などが書かれていた。
向かい側の男が早口で読み上げると、ボールペンを勧めた。
「私は店長の今川 恭典です
分からないことは何でも聞いてください」
ニコリとすると、手元に書類を差し出した。
書きながら、
「明日から入れますか」
「はい」
というと、ロッカールームと洗面台の案内を受け帰宅した。
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