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奇妙な記憶
本を読んでいた記憶は残っている。
バイトの面接をして、明日から来てくださいと言われたのもはっきり覚えている。
奇妙な話だが、カフェのブースで同時に2人の自分がいたのである。
「ちょっと疲れてるのかな。
一応バイトが始まるってことで明日は行けばいいんだよね」
誰もいない部屋でつぶやいた。
管理人室のあるワンルームマンションで、鉄扉にドアポストがある。
毎日チラシが放り込まれている以外は郵便物はない。
隣りの部屋には、溢れるほどチラシが挟みこまれている。
顔も知らないが、長期で留守にしたのか出て行ったのか。
そんなポストが同じ階に3つあった。
ポストに養生テープが貼られていれば、空き部屋だとわかる。
集合ポストにはいくつか緑の養生テープで封鎖されたポストがあった。
銀色のステンレスと緑のコントラストが妙に印象に残った。
冷蔵庫を開け、じゃがいもと人参、鳥の胸肉を取り出して包丁で小さめにカットする。
鍋に水を張り、IHのタイマーをセットし具を放り込んだ。
毎日料理をしているお陰で、包丁さばきには自信がある。
具の煮え方に応じて温度とタイミングを勘で計れるし、味付けも失敗したことがない。
飲食店でアルバイトをするのが、自分らしい選択だったと改めて思った。
料理の名前はないが、おいしい雑炊ができ上るとさっさと夕食を済ませて布団に入った。
朝はアルバイトの面接に行こうと思っていた。
カフェに向かうと読書をしたくなって早めに入ってブースの設定をして。
いつの間にか面接を終えて書類を書いていた。
全部自分の経験だし、はっきり記憶に残っている。
考えれば考えるほど奇妙だった。
同時に2人分の記憶がある。
どちらも現実の自分である。
明日2つのブースで起こったことを尋ねてみようか。
アルバイトの初日に変な人だと思われるのはリスクが大きい気もする。
第一印象でしくじると、取り返しがつかないのではないか。
読書好きの大人しい自分が、ダンスミュージックをガンガンにかけて本を読んでいた。
同じ名前の自分が隣りで面接を ───
カバンと本も手元にある。
だったらアルバイトはしないのだろうか。
堂々巡りに考えるうち、眠りに落ちていった。
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