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僕が生まれる十数年前。突如として、人類の一部が魔法を使えるようになった。それはどのような科学的根拠を用いても解説のしようが無く、説明を諦めた専門家達曰く「奇跡だ」。
魔法使いとなった人々は、最初に限り、国の平和に貢献しようと活動した。ところが、己の能力と貪欲に溺れた魔法使い達は、自らを「神使」だと訴え、一般市民からの特別扱いを求めるようになった。
この国では魔法が使える者と使えぬ者で住む地域が異なり、互いの生活はそびえ立つ壁で完全に遮断されている。
以前、ドイツに存在した「ベルリンの壁」とやらに似ている。
けれど、この国の壁は最早「壁」という名目の「バリア」。ミサイルをぶっ放したって、傷の一つも付きやしないだろう。というか、バリアが強力過ぎる故に、攻撃相応の爆発が跳ね返ってくる可能性だってある。
まあ、紫の禍々しいバリアを目にしてそんなことをする馬鹿は居らず、安寧な日常が続いてきた。
「だがしかし、自称・神使の魔法軍は“神からのお告げ”を口実として、二日後にこの街を侵攻すると宣言したのであった」
二羽の鴨は快い羽音と水飛沫を立て、南方へ飛んでいった。ここは数日後に血色の川へと変化するだろうから。鴨達、もう二度ここに来るなよ。
「あら、先客さんがいらっしゃいますね」
僕の背後から声が聞こえる。誰だ、と呟きつつ振り返ると、そこには僕と同い年ほどの少女が立っていた。魚の鱗のように光り輝く銀髪が、そよ風に揺られている。
「貴方も暇人さんでしょうか。……えへへ。初めまして、私は大栗音羽です」
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