一章〜守護師への道のり

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思い切り膨らんだ腹部でTシャツは胸までめくり上がった。 その様子はまるで出産時の妊婦と酷似している。 紗耶虎は薄っすらと開けてきた視界を下に向けた。 そこには自分の胸の下からへそのラインまで真っ黒くなり、そこが円形にぐるぐると渦巻いている異様な光景があった。 『何!?く、苦しいよ!お母さん!お父…俊樹さん!!助けて!!苦しい!!死にたくない!!』 「あ…あ…あ…あっあっあっあはぁ…おぉお…」 紗耶虎は口をすぼめ、全身を硬直させた。 そして血涙が流れ始めた。 力むように座った足をぴんと伸ばし、その足をつっかえ棒代わりに踏ん張ってずり落ちるのを防いでいる。 何かが自分の腹の中、正確には腹の表面から出てくるような感覚が紗耶虎を襲った。 「おっ…おぉォォ…ぐぅぉぉ…」 紗耶虎の力みと声と共に、真っ黒い腹部の渦からズルリと金色に輝く鹿の角のようなものが出てきた。 それは紗耶虎の腹から徐々に姿を表し、ずぼっという肉々しい音を立てて全体像が現れた。 それは全高30cmほど、全長50cmほどの黄金に輝く鹿だった。 その黄金の鹿は紗耶虎の膝の上に光り輝きながら立っていた。 「ハァ〜!ハァ〜!ハァハァ!アハァ…ハァハァ…」 紗耶虎は全身汗まみれになり、肩で大きく息をした。 徐々に白目も通常に戻っていき、薄っすらとしか開けてなかった視界もクリアになっていった。 紗耶虎は自分の膝の上に存在する黄金の小さな鹿に驚き、目を見開いた。 見開いた拍子に血涙がドバッと流れ落ちた。 「ハァハァ…クッ…ハァハァ…え?何?この子何?なんなの?」 体に不釣り合いなほど枝分かれした大きな角を持ち、堂々とした佇まいの小さな鹿は優しく、無邪気な目で紗耶虎を見つめている。 「…ねぇ君は…?ハァハァ…なんなの?…教えて?」 その小さな鹿は紗耶虎に答える様に、角を勢いよく振り金属製のトイレットペーパーホルダーにガツンとぶつけた。 すると、そのトイレットペーパーホルダーは魔法にでもかかったように金色に輝くと、そのまま数mm角に分解されて重力に引っ張られ下に落ちていった。 そして数mm角に分解された金色に輝くトイレットペーパーホルダーの破片は地に着くと音もなくチリチリと焼けるような音とともに消滅した。 それを紗耶虎はその小さな鹿と共に見ていた。 紗耶虎と小さな鹿は同時にお互いの顔を見つめ合った。 「ふぅふぅ…ハァハァ…私…の味方?…君…私から出てきたの…?」 小さな鹿は当然話すわけでもない。 何か行動をして、それを返答としているわけでもない。 だが紗耶虎はその小さな鹿の目を見つめて直感した。 「ふぅうう〜…ハァ…君…私の味方だね…?フフッ…こうして見るとかわいい。かわいいね…」 紗耶虎はすっかり乱れた髪と、額に浮かんだ汗をそのままにくしゃりと笑った。
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