1人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな事って言うけどさ、やっぱ気になるよ。だって虎だよ?一体なんだろうって思うじゃない?」
紗耶虎は隣の母親を注視しながらそう言った。
何も察していない素振りをしている。
紗耶虎の推察通り、母親は中々答えない。
母親はちらちらと父親に目配せしている。
『まったく、ここまで隠し事が下手な大人がいるんだね…。お父さん一人に聞かなくて正解ね。お父さんは…』
父親の表情は変わらない。
だが父親も答えようとはしない。
『でも分かるよ?お父さん。今凄いスピードで頭回してるんだろうな…多分もうすぐ…』
「紗耶虎、お父さんはな?普通が嫌いなんだよ。でも突拍子もないのも嫌いなんだ。ここまで言えば分かるだろ?本当は紗耶子、子どもの子にしようとしたんだ。」
紗耶虎の推察は見事に適中していく。
父親はそのまま続けた。
「でもお父さんは普通が嫌いだ。そして自分の娘には強くあってほしい。しなやかで、でも芯を強く持ち、そして虎の如く勇ましく強くあれという思いから虎を最後に付けた。いいだろ?」
父親は上手く言えたという満足感から深い息を吐いた。
「うん。かっこいいし、私は気に入ってるよ。」
紗耶虎は父親の言う通りの女の子に育った。
基本的な所作はゆったりと上品ではあるが、虎の名を持つだけあって自分の芯を傷つけられたり筋が通らないことを押し通そうとする者に対しては感情剥き出して喰らいついていくタイプだ。
なので友人は少ないがその絆は極めて強固なものだ。
「紗耶虎、何が言いたいんだ?」
父親はそう言うとご飯茶碗を手に持ち、かき込んだ。
「別に。ただ本当に気になっただけだよ?」
「ほぉん。んならいいけどさ。はぁ…ご馳走様でした。うぃ~。」
父親は立ち上がり、そのままダイニングからいなくなった。
そのまま風呂へ行くのがいつもの流れだ。
父親は晩酌からの長風呂はいつも母親から注意されているが正す気配がない。
母親はまだ紗耶虎の隣で夕食を取っている。
「ね、お母さん。」
「んん?どうしたの?紗耶虎もさっさと食べちゃいなよ。」
紗耶虎は母親と視線を合わさずに言い放った。
「ね、私ってさ、娘なんだよね?」
母親は一瞬跳ね上がった。
「む、娘?当たり前だけど?どういう意味?」
「いや、そのまんまだよ?お父さんとお母さんの娘だよねってこと。」
「なななな、何で急に…?」
紗耶虎は父親がその場に居ないことを確認するように周囲を見回した。
そして堰を切ったように話し始めた。
最初のコメントを投稿しよう!