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「そっか、ちょっと長くなるけどできるだけ簡単にね。私ちょっと最近色々感じている事があってね。その…言いにくいんだけどお父さんの匂いに凄い違和感を感じててさ。」
「…?」
母親は首を傾げた。
「お父さんの匂いが凄い好きになっちゃってね。」
「は?す、好きに…?」
母親は気の抜けた声を出した。
「おかしくない?でね?ここからちゃんと聞いてね?で、その好きっていうのがおかしいんだよ。私色々調べて勉強したの。血の繋がっている異性の親の匂いが好きになるっておかしいみたいなの。だからさ、私二人の子どもなのかなって…」
「アッハッハッハ!!」
突然母親が口に手を当てて大声で笑い始めた。
「ちょ…何…?」
紗耶虎は口をひん曲げて母親を睨んだ。
「アッハッハ…ハァハァ…ムフフフ!アッハッハ!」
母親は堪えきれないといった様子で笑い続けた。
紗耶虎の苛つきは段々と積み重なっていく。
紗耶虎はそれなりの覚悟を持って今日このタイミングで言うことを決めていた。
それほど考え抜いた末の決行だったのに母親からこの仕打ちだ。
冷静になどいられないだろう。
「お母さんッ!!!!」
バシィッとテーブルを叩き、紗耶虎は立ち上がった。
紗耶虎はその後の言葉は続かなかった。
ただ涙ぐみ、母親を見下ろすことしかできなかった。
母親は笑うのを止めて微笑んだ。
「あぁ…ごめんごめん。あのね、紗耶虎。…あぁまぁちょっと座んなよ。ね?」
紗耶虎は母親から促されると腰を曲げず、真っ直ぐそのまま椅子に座った。
「紗耶虎、ネットの情報全部信じてちゃ駄目よ?紗耶虎が小学五年生の頃、凄い大きい台風が来たの覚えてる?」
「お…覚えてるよ…。」
紗耶虎はブスッとして答えた。
「その時お父さんがね、一生懸命自分で考えて考えて考え抜いて対策をしてくれようとしたの。自分の経験とか、仕事での経験とか知識とか、色々考えて対策をしてくれようとしてた。でもあたしがね、そんなことネットに書いていない、ネットにはこう書かれているからそれは違う、間違ってる、ネット…ネット…ネットには…って。」
「酷い…。」
紗耶虎は思わず口にした。
そして母親を睨んだ。
しかし母親は淡々と続けた。
「お父さん本当に優しいじゃない?本当に優しいの。そんなお父さんがね、言ったの。お母さんが指示してって。言われた通りに俺はやるって。別にそれでお母さんに責任を押し付けたりしないよって。だから安心して自分の思う対策を俺に指示してくれって。で、最後に言われたの。」
「何て…?」
「ニコッて笑ってさ、自分の思う対策をした方が安心だろって…さぁ、指示をしてくれって…頑張るよって…ホント、紗耶虎の言った通り酷いことしたもんだよ。」
母親は悲しそうに笑った。
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