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副業
会社の給湯室。私はスマホを手に震えていた。
「うっそでしょ……」
何度見ても結果は変わらない。
「加奈子ちゃん、コーヒー私の分もよろ~。
って、どうしたの?」
千景先輩がひょこっと顔を出した。
CMみたいに、さらさらのロングヘアが揺れる。黒髪眼鏡長身美人は目の保養だ。
「聞いてください先輩……」
「もしかして例のイケメン彼氏にフラれた?」
「それもありますけど」
「あるんだ」
「昨日フラれました。好きな人ができたって」
「あちゃー」
「それだけでも悲しいのに、見てください。
今月もう予算オーバーですよ!
物価高が私を殺しにかかってるんですー!」
家計簿アプリを見せると、先輩は「あら赤字」とつぶやいた。
「お菓子の材料がことごとく値上がりしてるんです! 特に卵! お給料上がらないのに!!」
「世知辛いわね……」
「これじゃ趣味のお菓子作りに支障が出ます……」
「加奈子ちゃんのお菓子、おいしいもんねぇ。クッキー、マフィン、パウンドケーキ……」
さりげなく口元のよだれをぬぐう先輩。
「お金がほしいです」
「そうねぇ」
私はため息をついて、ケトルのスイッチを押す。やがてシュンシュンと蒸気があがる。
「あのさ、加奈子ちゃん」
何事か考えていた先輩が口を開いた。
「なんでしょう」
「彼氏と別れたから時間に余裕できたんだよね?」
「さらっと傷をえぐりましたね、まぁそうなんですけど」
「もしよかったら……副業しない?」
「副業!」
その手があったか!
物価高はどうしようもない。できるとすれば、収入を得られる場所を増やすこと。
時間が削られるけど、金欠でお菓子作りができないよりマシだろう。
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