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先輩はタブレットの画面を突きつけた。
「SNSではずいぶん派手にやってるようね」
彼が映っている。知らない女の子と。
画面をスライドするたび、次々違う子と映る彼の姿を信じられない思いで見つめた。
「これって……」
「加奈子ちゃん、あなたの元カレ、七股かけてるのよ。
あなたを切り捨てた後、友達のクリスマスパーティーに誘われて、思ったみたいね。
ケーキを作れる子を連れて行けば周りにマウントとれるぞ、ってね。裏じゃそういう性格だってのもわかってんのよ」
どう入手したのか、LIMEのスクショが出てきた。そこには、
「彼女にケーキ作らせるよ」
「わー家庭的ー! いい子つかまえたな」というやり取りがあった。
うそでしょ、と彼を見る。
だけど彼は否定するどころか、別人のように険しい横顔をしていた。
「くそっ、鍵かけて複数アカ作ってたのに、どうして……お前何者なんだ!?」
先輩はカッ、とヒールを鳴らして仁王立ちになる。
「ただの面倒見のいい先輩よ」
そしてウィンク。タイミングよく犬がワン! と吠える。
私は気が気じゃなかった。ケルベロスはあの部屋から離れると力が弱まるんじゃなかったっけ。大丈夫だろうか。
そして同時に思った。真実がわかった今、ケルベロスの方が気になるってことは、私もう……。
肩に置かれた彼の手を、私はつかむ。
そして、両手で握り、彼と向き合った。
「これまでのこと、ありがとう。
でも、もう私はあなたといたって幸せになれない。
さよなら」
手を放す。彼はたじたじになっていたが、やがて「うるせーブス!」と言い捨て走り去っていった。
「誰がブスだ」と先輩がドスのきいた声で言い、
「地獄で覚えてろよ」と足元から女の人の声。ああ、やっぱり。
「スーさん!」
「はーい、私が代表で出てきましたー。他の二人もいるのよ、見えないだけで」
白い犬がふさふさのしっぽを振る。この安心感。
「さぁ、帰りましょ」と先輩が言った。
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