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「いいにおいだね」
犬の口が動き、少年の声が聞こえた。
……え、日本語?
今、日本語しゃべったよね?
先輩が進み出る。
「この子、お菓子を作ってきてくれたんです。
それよりケル、ベロ、スー。
まだ地獄バージョンのままですよ」
「あら、ごめんなさい」
インターホンで聞いた声がした。
三つの頭がぶるるる、と回転する。風が顔に吹きつけ、思わず目をつぶった。
再び目を開けると黒い犬は消えて――代わりに三つ頭の大型犬がいた。しかも白い。恐ろしかった顔も、ゆるい雰囲気に。
うるうるした六つの瞳が、私を見上げた。
「か……かわいい」
さっきまでと真逆の感情が浮かぶ。
「俺はケル」
「ベロだよ」
「スーっていうの。
三頭合わせてケルベロスですー。よろしくね」
左の頭から順に自己紹介。そして。
「はーい、というわけで副業は、『ケルベロスが息抜きをするお手伝い』でした!
どう? びっくりした?」
先輩が「ドッキリ大成功!」と言わんばかりにニコニコしている。
「……息抜きの、お手伝い?」
「そう」
「私、食べられたりしません?」
「しないしない」
「君、名前は?」
左の頭、ケルがしゃべる。いい声だ。アニメのイケメンキャラのような。耳が幸せ。
「か、加奈子といいます」
「よろしくね」
犬の目が細くなる。
「はいっ」
思わず返事をしていた。
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