アラサーぼっちと保護犬ロン

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「ねぇ、知佐はどの子がいいと思った?」  いきなり母さんから意見を求められて、俺は頭を回す。口に出した名前は、二人の会話の中で出てきた適当な保護犬の名前だった。理由を訊かれて「だって可愛かったじゃん」と適当にはぐらかす。  こんなこと言ってはいけないのだろうけれど、正直俺は、飼うのならどの保護犬や保護猫でもあまり構わなかった。ペットを飼いたい二人の気が済むなら、それでいいと思った。 「そうだ。そういえばあの子は? ほら、知佐のことじっと見てた子いたじゃない。えっと、名前なんて言ったかな……」 「母さん、確かロンじゃなかったか」 「そうそう、ロン。私あの子もいいと思ったのよね。会ったばかりなのに、知佐に心を許してる気がして」  名前すら覚えていなかったくせに迎え入れたいなんて、調子が良すぎるだろう。それこそそのロンが可哀想だ。  そう思っても、俺はやはり口には出さなかった。俺も他の保護犬や保護猫よりは、そのロンのことを多少なりとも身近に感じていた。 「俺も悪くないと思ったよ」と言うと、話は一気にロンのことに傾き出す。見た目もそうだが、成犬で性格も安定しているとのスタッフの説明も、二人には魅力的に感じたらしい。少しずつ候補がロンに一本化されていく。  ロンを飼えるだけの広さが家にあることも相まって、迎え入れる選択肢が現実味を帯びてくる。 「じゃあ、ロンの譲渡を申し込むってことでいいね?」  ある程度話が進んだところで、母さんが確認するように言った。俺と父さんも頷く。二人が乗り気になっている今、俺が止めていい理由はどこにもなかった。 「じゃあ、受付の人にそう伝えてくるね」と言って席を離れていった母さんが、アンケート用紙を手にして帰ってくる。そこには申込者のプロフィールや住居環境、ペットの飼育経験や希望の保護犬や保護猫を選んだ理由等を記入することになっていた。  俺たちは相談しながら、少しずつアンケートを埋めていく。条件が合致したら、後日また連絡が入るらしい。  俺はアンケートを見ながら、ロンのことに思いを馳せた。こちらを見つめるつぶらな瞳は、すぐには忘れられないような気がした。
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