アラサーぼっちと保護犬ロン

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 でも、実際に木和田はものの数分もしないうちに戻ってきた。木和田はその手にロンを抱えていて、俺はかすかに驚いてしまう。ケージがあるから予想はできたものの、実際に辺りをキョロキョロしているロンを見ると、俺の背筋は否が応でもぐっと伸びた。  木和田はロンを同じ空間にいさせることで、俺たちの意志を試そうとしているのかもしれない。  木和田にケージに入れられて、ロンは床材の上にゆっくりと座った。俺たちを代わる代わる見る視線が、本当に飼えるのかと問うているようだった。 「では、これより面談を始めさせていただきます。改めて本日はよろしくお願いします」  木和田の表情は落ち着いていたけれど、それでも真剣だった。その目に俺は、一つの命がかかった面談であることを改めて悟る。 「よろしくお願いします」と俺たちが返すと、「では、まずは先日の譲渡会で記入いただいたアンケートの内容について確認いたします」と木和田が言う。  その手に握られたバインダーには、言葉通り俺たちが記入したアンケートが挟まれていた。 「譲渡希望者は二枚美也子(にまいみやこ)さん。年齢は六五歳でお間違いないですね?」 「はい、間違いないです」。そう母さんが答えると、木和田は微妙に険しい表情をした。 「あの、どうかしましたでしょうか?」 「二枚さん、正直にお伝えしますね。実は六五歳以上の方が保護犬を迎える際には、他に世話を手伝ってくれる方がいらっしゃるか、確認を取ることになっているんです。犬を飼うということは、散歩以外にも大きなエネルギーを使いますから」 「それなら、大丈夫です。こちらの知佐、私たちの息子も、世話を手伝うことに同意してくれていますから」  母さんが言った横で、なるべく演技くさくならないように俺は頷く。木和田に改めて世話をする意志があるかどうか訊かれても、「はい」と首を縦に振った。  もともと高齢者が保護犬を迎えることが難しいのは分かっていた。だから、俺は母さんたちの望みが叶えられるように、協力的な姿勢を取ろうと決めていた。
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