アラサーぼっちと保護犬ロン

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「実は、ロンくんには飼育放棄をされていた期間があるんです」  木和田が告げた事実に、俺は固まる以外の反応を示せなかった。今のロンは、とてもそんな風には見えない。 「それはどれくらいの期間ですか?」と、おそるおそる母さんが訊く。 「三日間ほどです。実は、前の飼い主さんが職場で倒れてしまいまして、入院していた期間があったんです。その飼い主さんは、同僚にロンくんを飼っていることを話していなかったようで。三日経ってようやく保護されました。その飼い主さんには病気が見つかり、このままロンくんといることは難しいと。それが、ロンくんがここにいる理由です」  木和田の話を聞きながら、俺は横目でロンの姿を捉える。じっと座っていて落ち着いているように見えたが、内心では怯えていたりびくついているかもしれないと考えると、どこか心が痛んだ。 「……そうだったんですか」 「はい。三日間という時間は、ロンくんの心を傷つけるのには十分すぎました。飼い主がいつまで経っても戻ってこないという不安に苛まれていたのでしょう。保護されたときのロンくんは、とても怯えた目をしていました。もともと警戒心が強い子だったのでしょう。保護された当時はなかなか人に気を許すこともなく、この施設や私たちに慣れるのにも、少なくない時間がかかりました」  木和田の話がどこに向かっているか。俺だって分かっていなかったわけではない。  でも、だからこそその先はあまり聞きたくないと感じてしまう。母さんたちも同じように感じているのが、表情を見なくてもなんとなく察せられる。  それでも、伝えなければならないことだと、木和田は言葉を続けた。 「ですから、もし二枚さんに迎え入れられて、再び環境が大きく変わったとしたら、またロンくんは心を閉ざしてしまうかもしれません。なかなか二枚さんたちにも慣れてはくれず、しつけにも時間がかかるかもしれません。強張った反応をしない。そんな保証はどこにもないんです」
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