アラサーぼっちと保護犬ロン

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 家に上がった木和田は、俺たちが用意したケージにキャリーバッグを置いて、蓋を開けた。ロンがおそるおそるといった様子で、俺たちの家に足を踏み出す。  ロンは辺りを見回すと、不安そうに俺たちのもとを見上げていた。俺はロンの反応をおかしいとは思わない。急に環境が変わって、すぐに順応できる方が珍しいだろう。だから、少し怯えたような表情も気にならない。  二週間と期間は限られているものの、ゆっくりと時間をかけて慣らしていけばいいと思った。  ペット用品や、保護団体と同じドッグフードを用意しているかの確認。トイレトレーニングをはじめとした簡単なしつけの仕方の伝授。困ったことがあったらいつでも連絡してほしいとの念押し。他にもいくつかの確認事項を伝えると、木和田は「では、改めてよろしくお願いします」と、帰っていった。  いよいよロンと俺たちの(今のところは期限付きの)共同生活のスタートである。  とは言っても、いざロンと一緒に残されると、俺たちは何をしたらいいのかがすぐには分からない。ロンが来てからのことは俺だって多少なりともイメージしていたが、改めて目の当たりにしてみると、そのどれもが根拠のない空想だったと思い知らされる。  とりあえず昼時を過ぎていることもあって、母さんがドッグフードと水を与えてみる。ちゃんと指示されたとおり、保護団体が与えていたのと同じドッグフードだ。  だけれど、馴染みのあるはずのドッグフードにも、ロンはすぐには近づいてはこなかった。もしかしたら、食欲がまだあまりないのかもしれない。  でも俺は、それ以上に新しい環境に加えて、俺たち三人にじっと見つめられて、戸惑っているのだろうと察する。  だから、俺はいったんロンから離れた。母さんたちに「見ていないの?」と訊かれても、構わなかった。  そのままスマートフォンを見ながら、それとなくロンの様子を窺うことおよそ一時間。ロンはようやくドッグフードを口にしていた。まだおっかなびっくりという様子だが、匂いで今までと同じドッグフードと気づいたのだろう。  一口一口ゆっくりと食べているロンの姿に心を動かされたのか、母さんたちは「偉いねー」と、ロンの頭を撫でている。でも、いくら撫でられても、ロンは安心した目をすることはなかった。それどころか、かえって身体を強張らせているようにも見える。  その姿に、俺は前途多難だなと思わずにはいられなかった。
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