アラサーぼっちと保護犬ロン

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「よし、じゃあ行くか」  そうロンに声をかけて、俺たちはおもむろに歩き出す。  とはいえ、あと一時間もすれば辺りは完全に暗くなってしまうから、そう遠くへは行けない。なんとなく近所を一周するコースを、俺は頭の中で組み立てた。  慎重な足取りで歩くロンに、俺の歩調も自然とゆっくりになる。ただ足を動かしているようにも見えるその姿に、俺は散歩を楽しんでいるとは感じられなかった。ただ俺たちのエゴで、歩かされているのではないかとすら思ってしまう。  人間の勝手な都合で飼われ、保護され、そしてまた飼われようとしている。そんな図式が透けて見えて、俺はロンに申し訳ない思いを抱いてしまう。  もしかしたらロンはこんなことはせずに、家にいたかったのかもしれない。いや、それ以前に保護されていた愛護センターに戻りたいと思っているのかもしれない。  そう考えると、俺は今すぐにでも家に帰りたくなった。すれ違う人間からの犬を散歩させてるんだ、という悪意のないはずの視線が、刺さるように感じられる。  こんなことをして、ロンのためになっているのか。そもそもロンは、俺たちの家にいたいのか。  その問いにはっきりと「そうだ」と言えるだけの自信は、俺にはまだなかった。
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