アラサーぼっちと保護犬ロン

23/43
前へ
/43ページ
次へ
 玄関からインターホンが鳴る。でも、誰が来ているかは俺には分かっていたたから、ソファから立ちはしなかった。  母さんが玄関に向かっていく。ドアが開いて聞こえてきた話し声は、河東幸(かわひがしさち)、つまりは母さんの友人の声だった。よく俺たちの家に来ているから、当然俺も面識がある。 「犬飼い始めたんだって?」という言葉が聞こえてきたことから察するに、母さんはロンを河東さんに見せたくて呼んだらしい。まだ俺たちにも完全には慣れていないのに、大丈夫だろうか。  俺は疑問を感じたけれど、きっと大丈夫だろうと思いこんでやり過ごした。 「お邪魔しまーす」  そう言って、河東さんがリビングに姿を現したそのときだった。初めて見る人物の登場に、ロンが立ち上がったのだ。  そして、そのまま間を置かずに、ロンは河東さんに向かって吠えた。まるで河東さんを追い払わんとするかのように。  初めて聞くロンが吠える声はとても鋭く、反抗的で、その底に少しの悲しさを帯びているように、俺には驚きとともに感じられる。今までこんなことはなく、懸命に吠えるロンの姿に、俺たちには多少なりとも心を許していたことが、逆説的に分かった。  当の河東さんはすっかり面食らった顔をしている。母さんが「向こうの部屋行きましょう」と言って、河東さんとともにリビングを離れていっても、ロンはすぐには吠えるのをやめなかった。  河東さんの残像に向かって吠えているようで、俺は切なさを感じてしまう。父さんがロンに噛んで遊ぶおもちゃを与えて何とか事なきを得たが、それでも今しがた起こった光景から受けた衝撃は、俺の中で尾を引き続けた。  河東さんだけじゃなく、他の人間がやってきたときも、ロンは同じように吠え続けるのだろうか。そう思うと、あまり家に人を呼ぶべきではないと感じてしまう。  でも、気軽に家に呼べる人間には心当たりがなかったから、悲しいことに、俺にとっては取り越し苦労に過ぎなかった。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加