アラサーぼっちと保護犬ロン

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 ゆったりとしたヒーリングミュージックが流れている。大きな窓から日の光がふんだんに取り入れられて、店内は開放的な空気を帯びている。  その中で俺たちは、椅子を円形に並べて座っていた。犬を抱いて話している者もいれば、側に作られた広いスペースの中で、犬を遊ばせている者もいる。初めて来た場のどことなく独特な雰囲気に、俺は少し縮こまってしまう。  普段は犬も連れて利用できるカフェは、この時間帯は保護犬の里親が集まる会、通称〝イヌノワ〟の貸し切りとなっていた。 「それでは、最後に二枚さん、自己紹介をお願いできますか?」  今日の会の主催者である箕輪(みのわ)さんにそう名指されて、母さんは「は、はい」と背筋を伸ばしていた。その姿はどこか緊張していて、元々俺たち以外は全員知り合いでコミュニティができあがっているところに入っていくのだから、無理もないと俺は感じた。 「皆さん、初めまして。二枚美也子です。それとこっちは息子の知佐です。ロンという四歳のオスのコーギーと一緒に住まわせてもらっています。まだまだ飼い始めたばかりですので、今日は皆さんのお話やアドバイスを聞きたいと思ってやってきました。どうぞよろしくお願いします」  俺は、母さんと一緒に小さく頭を下げる。少し形式的すぎないかとは思ったけれど、初めての場ではこれくらい丁寧な方がいいのだと思い直した。  参加者たちは「よろしくお願いします」と、温かな態度で俺たちを受け入れてくれる。そんなに肩ひじを張らなくてもいいと言うように。
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