アラサーぼっちと保護犬ロン

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「二枚さん、今日はロンくんは連れてこられなかったんですか?」  母さんのちょうど真正面に座る、大西(おおにし)さんが尋ねる。膝に座ったポメラニアンのアエルちゃんは落ち着いた表情をしていた。 「はい。ロンはまだ家に来たばかりで慣れていなくて。だから、皆さんを信用していないわけではないんですけど、他の方や保護犬の前に連れてくるのは、少し不安に思ったんです。今は、家で私の夫が面倒を見てくれています」 「そうなんですか。もしまたいらっしゃることがあったら、そのときはロンくんも連れてきてくださいね。無理のない範囲でいいので」 「はい。ぜひそうしたいと思います」  全員の自己紹介が終わると、店内はフリータイムに入った。この集まりは、もともとテーマを決めて話し合おうというものではない。思い思いに一緒にいる犬のことを話して、楽しい時間を過ごそうというものだ。  人間の言葉を理解しているとしか思えないようなエピソードを話したり、スマートフォンで撮られたそれぞれの犬の写真を見せてもらったり。参加者たちは皆、弾んだ表情をしていた。自分と一緒にいる犬の話ができて、嬉しくて仕方がないみたいに。  だけれど、俺たちはまだ話せるエピソードは皆無だし、見せられる写真もほとんどない。  母さんは話を聞いているだけで楽しいといった表情を見せていたけれど、俺はそんな上機嫌にはなれなかった。まだロンと過ごした時間が少ないことに、疎外感を味わってしまう。  アレルギーへの反応や、注意すべき病気の兆候など、役に立ちそうな情報も多く得られたが、まだここに来るべきではなかったのではと感じてしまっていた。 「えっ、二枚さんのお宅のロンくんって、まだトライアル期間中なんですか?」  母さんがロンのことを少し話すと、隣に座る小坂井(こさかい)さんが、軽く驚いたように口を挟む。その意外そうな言葉に、俺は勝手に窮屈さを感じてしまう。 「はい。先週の日曜日にお迎えしたばかりで。まだ二週間のトライアルの真っ最中なんです」 「そうだったんですね。じゃあ色々と大変でしょ」と理解を示すように頷いたのは、俺の隣に座る寺尾(てらお)さんだ。膝の上に乗せられたチワワのミクちゃんが、少し眠たそうな目をしている。
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