アラサーぼっちと保護犬ロン

26/43
前へ
/43ページ
次へ
「そうですね。まだ私たちの家にも慣れてくれなくて、一日中自分のベッドの上にいますし、私たちに心を開いてくれていないのか、声をかけても反応は薄いです。譲渡会のときは、もうちょっと活発な子だったんですけど」 「分かります」と箕輪さんが言う。共感を示してくれることに、俺たちはほんの少しだけ勇気づけられる。 「私もタイガを迎え入れるときには苦労しましたから。なかなか懐いてくれず、ドッグフードすら全然食べてくれず、最初は本当に大丈夫なんだろうかと心配しました」 「僕もです。保護犬って、どうしても保護されるまでに辛い思いをした子が多いので。アエルも最初は心を閉ざしてしまっていて。僕たちに慣れてくれるまで、少なくない時間がかかりました」  箕輪さんに続いて大西さんも同意を示す。さらに、小坂井さんや寺尾さんも同じように頷いていて、ロンと俺たちが抱えている問題は、別段珍しくはないことが察せられた。 「あの、では皆さんはどうやって、保護犬との関係性を築いていったんですか? どうやって心を開いてくれるに至ったんですか?」  母さんが訊いているのは、当然の疑問だろう。俺だってなかなか懐いてくれないロンに、やきもきしている部分はある。有効な手段があるならぜひ知りたいという思いは、俺も一緒だった。 「そんなの、毎日地道な関わりを続けていくしかないですよ。ロンくんのペースや性格に合わせてゆっくりと、それでも根気強く接していく。毎日私たちはあなたのことを大切に思っていると、伝え続けることが一番ですよ」  箕輪さんが口にしたのはごく当たり前の、俺たちにとっても分かりきっている方法だった。それがうまくいっていないから苦労しているのにと、言いたくなるほどの。  でも、大西さんと寺尾さんも頷いていたから、俺はロンと信頼関係を築くのに、魔法も近道も存在しないことを改めて思い知った。地道に一歩ずつ前に進んでいくしかない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加