アラサーぼっちと保護犬ロン

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「やっぱりそれが一番ですか」 「そうですよ。トイレがうまくいったりとか、ご飯をいっぱい食べたりとか、散歩でたくさん歩いたりとか、そうしたいいことをしたときにはとにかく褒めることが重要です。そうすることで、距離も少しずつ縮まっていきますから」 「私も箕輪さんや小坂井さんの言う通りだと思います。でも、焦りは禁物です。ぐいぐい距離を縮めてこようとする人は、二枚さんだって嫌でしょう? 犬に接するときも同じです。焦ることなく時間をかけてゆっくりと。二枚さんはトライアル期間が終わった後も、ロンくんと暮らしていきたいんですよね?」  母さんと俺は、一緒になって頷く。 「だったら急ぐことはないと思いますよ。トライアル期間が終わってからでも、ロンくんに変わらぬ愛情を注ぎ続ける。そうすれば二枚さんの気持ちがロンくんに伝わる日は、必ず来ますから」 「……本当ですか?」 「二枚さん、本当ですよ。僕たちの姿がそれを証明してるじゃないですか」  大西さんに言われて、俺の目は大西さんの膝の上にいるアエルちゃんに向く。アエルちゃんは穏やかな表情をしていて、大西さんといることを嫌がっている様子は、少しもなかった。  それは他の三匹も同様で、連れてきて一目見たとき、雰囲気だけで全員がそれぞれの里親に心を許していることが窺えた。きっと時間をかけて育んできた関係性ゆえだろう。  だから、俺はここにいる四人が言うことを、里親の先輩として信じることができた。たとえ時間はかかっても、俺たちの気持ちはきっとロンに伝わるはずだと思った。 「そうですね。皆さんのおっしゃる通り、焦らず長い目でロンに接していきたいと思います」  そう言った母さんに、四人はしげしげと頷いている。頑張れとでも言うかのように。  俺は心強く感じた。この人たちにいい報告ができるようになりたいと感じた。
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