アラサーぼっちと保護犬ロン

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「ああ、知佐。おかえり」  こちらを向いた母さんは、どこか疲れたような面持ちをしていた。俺は気になって、「うん、ただいま」と言いながら、ダイニングテーブルへと向かった。父さんはコンビニに酒でも買いに行ったのか、今はいない。  俺が腰を下ろすと、母さんは「どうしたの?」と不思議そうな表情をしていて、かすかに混ざる懸念を俺は感じ取っていた。 「どうしたの? はこっちのセリフだよ。母さん、何かあった?」  母さんの表情には、灰色の雲が浮かんでいる。これでは、気にするなという方が無理な話だ。  俺の質問にも母さんはすぐには答えない。だけれど、わずかに横に向いた瞳に、俺は何に関することなのか、それとなく察してしまう。 「……あのね、今日ロンを近くの公園にあるドッグランに連れていったの」  母さんが打ち明けた言葉に、俺はすぐ「えっ、マジで?」と反応していた。  ロンはまだ、俺たちやこの家にすら慣れていないのだ。そんな状況で、不特定多数の人間や犬が集まるドッグランに連れていくなんて、時期尚早もいいところだろう。  でも、母さんは頷いて、紛れもなく本当のことだと認めていた。 「ロンはこの辺りしか知らないし、いい気分転換になるかもしれないって。それでちょっと時間はかかったけど、連れていったんだ」 「……で、どうだったの?」  俺がそう訊くと、母さんは今度は、はっきりとロンの方を向いた。ロンはぐっすりと眠っている。何事もなかったみたいに。 「やっぱり、まだちょっと早かった。ロン、他のワンちゃんたちにすっかり怯えちゃっててね。リードを外して自由にしてもいいよって言っても、足が竦んだように全然動いてくれなかった」 「……そうなんだ」 「うん。あまりにも怖すぎたせいか、他のワンちゃんにも吠えちゃって。で、そのワンちゃんの飼い主さんとも、ちょっとトラブルになっちゃったんだ。しつけができてないんじゃないかってきつく言われて、もう帰るしかなかったよ」
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