アラサーぼっちと保護犬ロン

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 しかし、ここで問題がある。家庭で学校で社会で、人に迷惑をかけるなと叩き込まれてきた俺には、人を殺すことができないのだ。  この世に生きるどんな人間でも、確実に俺よりは人に必要とされているし、間違いなく生きる価値がある。その人たちの人生を、毛ほどの価値もない俺が奪っていいわけがない。  しょせん俺には何もできないのだ。  だからこそ、俺は「死刑になりたいから」という理由で、実際に無差別殺傷事件を起こせる人間のことを、まず純粋に凄いなと思う。俺にはそこまでの行動力はない。今日も発砲および立てこもり事件があったが、いくら追い詰められても、俺はそんな真似はできないと断言できる。  結局俺は、腰の抜けたへっぽこで、意気地なしのゴミなのだ。今日も現状を変える努力をせずに、ただ淡々と何年も変わらない一日を過ごすことしかできない。  俺の人生、もう詰んでいるというのに。このまま生きていても、何にもならないというのに。 「知佐(かずさ)、ご飯できたよー」  一階から母さんの声がする。いつもと変わらない呑気な声だ。  今日も俺は何もしていない。あんな小学生でもできるゴミ仕事は、したとは言えない。  だけれど、情けないことに俺の腹は減ってしまっていて、今日も俺が無駄に生きたことを知らしめてくる。  俺はクッションから立って、部屋の外に出た。日中は温かくなり始めたとはいえ、夜の外はまだ寒く、廊下も部屋着では少し肌寒さがするほどだった。
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