アラサーぼっちと保護犬ロン

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 夜道をロンと歩く。太陽はすっかり沈んで、街灯が存在感を増している。涼しい風がかすかに吹いていて、散歩をするには悪くないコンディションだ。  だけれど、ロンは一歩一歩を確かめるかのように、ゆっくりと歩いていた。昨日も暗くなった中を散歩したのだが、まだ慣れていないらしい。俺もロンの歩調に合わせて、自動車や自転車に気をつけるようにして、慎重に散歩を続ける。  住宅街は家々から明かりが漏れていて、夜でも不気味に感じることはない。でも、ロンは目に映るもの全てに警戒しているのか、怯えているのかキョロキョロと目線が忙しない。  その姿に、この表現が適切かどうかはさておき、俺はいじらしさを感じていた。  もしかしたら、ロンと過ごせる時間はあと少ししかないかもしれない。母さんたちはトライアル期間が始まった頃は、迎え入れる気満々だったと思うけれど、それでも今の状態では、どちらに転ぶかは分からない。ロンが俺たちのもとから離れて、また新たな里親候補を待つ可能性だってないとは言えないのだ。  だけれど、こうやって一緒に歩いていると、俺はまだロンといたいなと思う。  少なくとも俺は、ロンが家にやってきてから、「死にたい」と思う機会は減っていた。今はまだ生きていたいと思える。そして、そこにはロンが必要不可欠なのだ。  俺の人生にロンがいてほしい。ロンがいなくなったら、俺はかすかに生まれ始めた、生きる意味を失ってしまうだろう。そう俺はロンとともに過ごした一〇日あまりで、思うようになっていた。  ロンはまだ不安そうに夜道を歩いている。その姿に、俺はロンを守りたいと思う。俺の勝手な思い上がりかもしれないけれど、それでも俺は単純にまだロンと一緒にいたかった。
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